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男女平等を実現する鍵は「日傘」!? 【パートナーシップの新常識】

ジェンダー平等が叫ばれて久しいが道のりはまだ長い。要因のひとつは、自分事化として捉えられている人が多くないことが挙げられる。実現のため、私たちにできることはあるのだろうか。社会学者・田中俊之先生と経済学者・山口慎太郎先生に解決のヒントをお話いただいた。

ジェンダー平等の促進は
日傘から始めよう

田中 本日のテーマはジェンダー・ギャップ※1ですね。日本は、先進国中、最下位です。

※1 ジェンダー・ギャップ:経済・教育・政治参加などの分野における男女間の不均衡。2022年、日本のジェンダー・ギャップ指数は、146カ国中116位。

山口 「何が問題なの?」と言われること、ありません? 私は順位が低くて恥ずかしいというより、「日本はもっとハッピーになる余地がある」「伸びしろがある」と捉えています(笑)。

田中 伸びしろ、いいですね。私は、ジェンダーという言葉の定義が、日本ではまだ曖昧だと感じます。

山口 同感です。ジェンダー平等はすごく身近な話題で、関係のない人なんていないのに、平等を唱えると政治的な発言に取られがち。難しいです……。

田中 我々のような専門家が、ジェンダー平等をより身近な問題としてみんなに受け入れられるよう、もっと力を付けないといけないですね。何かいいアイデアありますか?

山口 おすすめは、日傘です。

田中 いいですね。私も持っています。

山口 男性が日傘なんて、昔は考えられませんでしたよね。日傘があると、外歩きが本当に快適になります。「日傘は女性が使うモノ」といった固定観念を1つ1つ外していくことで、ジェンダー・バイアスが無くなっていくと思います。

ジェンダー・ギャップ指数(GGI)2022年

 


出典:内閣府男女共同参画局「共同参画」2022年8月号

(備考)
1.世界経済フォーラム「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書(2022)」より作成
2.スコアが低い項目は赤字で記載
3.分野別の順位:経済(121位)、教育(1位)、健康(63位)、政治(139位)

男性の育休取得率が高い=
働きやすい職場環境へ

山口 海外ではクオーター制※2が進みましたが、日本はまだまだ。

※2 クオーター制:政治において議員候補者の一定数を、女性と定める制度。発祥地はノルウェーで、法制化によって一般企業にもクオータ制を導入し、女性の社会進出が大きく進んだ。

田中 ジェンダー問題は、時代が変わったからといって、そうそう簡単には変わりません。なにしろ自分に偏見があることに気づいていない人、それを正す必要性すら感じていない人も多いですから。

山口 確かに。セミナーなどで、「女性の活躍はなぜ必要なんですか?」「男性が育休を取ることに、どんなメリットがあるんですか?」という質問を受けます。これまで企業が、女性にはキャリアも経済的自立も諦めてもらい、一方では男性を無制限に働かせてきたわけですが、もう限界で時代に合ってない。それを改めようという時に、大企業でもその調子ですから、拍子抜けしてしまいます。

田中 男性新入社員の8割は育休を取得したいというデータがあります。転職市場も同様で、育休が取れる会社は、イコール社員を大切にしてくれる会社。育休が働きやすさのリトマス紙になります。

山口 私も「男性の育休取得率が低い会社は、いい人材を採用できないし、今いる優秀な社員も流出します」と説明しています。

田中 育休は、みんなが働きやすい環境をつくる突破口です。

山口 私もかつては土日も仕事をしていましたが、子供が生まれて強制的にライフスタイルが変わりました。

田中 仕事のスタイルは?

山口 自分がプレーヤーでしたが、研究のクオリティーを落とさずに自分の稼働時間を減らして、いかに若手を育成してチームで動くか。私が抱え込んだら若手は成長しませんし。家族は自分がいないと回らないけど、仕事は回ります。おかげでマネージャーにスムーズに移行できました。自分がやったほうが早い!というヤキモキもありますが(笑)。

ジェンダー平等のための
家庭での適切なフォロー

田中 今回の育休の制度改正で、男性取得率の公表義務が企業に課せられたのは大きいですよね。『会社四季報』では、いまだに離職率がNAの会社がありますから、ノーアンサーはヤバいです。

山口 育休が育児へのコミットではなく、取らされたからしょうがなく家にいるというパパたちもいると聞きますが、育休取得で奥さんとチームを組んで子育ての大変な時期を一緒に乗り越えれば、それは貴重な経験になります。

田中 私は2人目が生まれて、夫婦で協力しないとどうにもならない状況が増えました。仕事量をセーブしたら、けっこう怖い。

山口 怖い?

田中 これまで女性が味わってきたような、仕事をしたいのにできない状態って、怖いです。

山口 確かに、業界の中で置いていかれる恐怖はあります。

田中 だけど、こんな恐怖を経験できてよかった、とも思っています。ところで、以前、長男が保育園から帰ってきて、「プリキュアを見ていると言ったら、友だちにバカにされた」と言うんです。

山口 どうしたんですか?

田中 仮面ライダーはかっこいい。プリキュアは可愛い。「かっこいい」と「可愛い」の両方が好きだと2倍おトクだよ、と言ったら納得していました。

山口 2倍おトク! その考え方いいですね。選択肢が増えることで幸福度は上がりますし。子供のジェンダー・ギャップを家で適切にサポートしてあげられるといいですね。

田中 子育てに時間を取られる焦りはありますが、子育てでしか得られない充足感や喜びがあります。長男がマンガのようなものを描いていて、それを読んで私が笑っていたら、そのあと「読んで、読んで」と何度もせがまれて(笑)。子供の素直さに触れると、人に喜んでもらうことの幸せや認められる喜びといった「仕事の原点」に気づかされました。

山口 子育てはたしかにお金では買えない体験。仕事で得られる自己実現や充実感とは違った幸せがあります。ぜひ、多くの男性にそれを体験してほしいですね。

田中 男性は、コントロール不能な育児に翻弄されて成長します。

PROFILE

田中俊之さん

社会学者。大妻女子大学 社会学専攻准教授。男性が男性だからこそ抱えてしまう悩みや葛藤に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて、男女共同参画社会の推進に取り組む。著書に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。


山口慎太郎さん

東京大学経済学研究科教授。専門は労働市場を分析する「労働経済学」と、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。著書に『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)『子育て支援の経済学』(日本評論社)など。1児の父。


文:脇谷美佳子

FQ JAPAN VOL.64(2022年秋号)より転載

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