【育休パパのすすめ】ママの産後うつを防ぐには?精神科医が教える原因と実践法
2021/11/10
女性が産後うつになる原因はどこにあるのだろうか? 育児・介護休業法の改正が実現し、男性も産休・育休を取得しやすくなった今、男性ができること・すべきことを精神科医の香山リカ先生に聞いた。
法改正の実効性は十分か
今後の取得率増加に注目
今年6月の国会で「育児・介護休業法改正案」が可決・成立しましたね。その柱となるのが、男性の育児休業取得促進のための枠組みの創設です。これにより、子供が生後8週になるまでの期間に最大4週間の休みを取得できるようになります。
2回に分けて休むこともできるので、出産時と退院時とに分割して取得することも可能になります。この法改正により男性は産休・育休を取得しやすくなりますから、歓迎すべき法改正といえます。
気になるのは、男性の育児休業取得促進の実効性です。実際に取得率を高めるには、取得を考えていない人・取得に前向きでない企業の姿勢を変える必要があります。そうした人・企業に、どのようにモチベーションを持ってもらうかが大切になります。
障碍者雇用を促進する法律のように、取得率が法定割合に未達の場合には会社名を公表する、罰則・罰金を課すといった、より厳しい内容にすれば、取得率が向上するはずです。これから始まる制度ですから様子を見る必要がありますが、政府には取得率向上に本気で取り組んでほしいと思います。
なぜ産後うつになるのか?
2つの大きな問題
では、なぜ男性が産休・育休を取得するべきなのでしょうか? いくつか理由はありますが、本誌読者の方に注目して欲しいのは、未だに女性への育児・家事負担が過大である、という現実です。それが産後うつを引き起こす原因の1つになっているのです。
産後うつになる原因の1つは心理的ストレスです。出産は命にかかわる行為ですから、大きな心理的ストレスが掛かります。後述しますが、周囲からの温かい声掛けが、逆にストレスを与えてしまうこともあります。
また、産後の女性には身体的ストレスも掛かります。ホルモンバランスが崩れるのです。少なからぬ女性が出産による体調不良に苦しんでいます。出産後の女性は、心理的・身体的ストレスを抱えやすい。うつが起きやすい条件が揃ってしまっているのです。
そんな女性のパートナーである男性が産休・育休を取得しないと、1人で育児・家事に取り組まねばならない、いわゆるワンオペ状態に追い込まれます。これが身体的ストレスを増すばかりでなく、心理的な緊張にも拍車を掛けます。
ところが周囲からは「嬉しいでしょう?」「幸せね」といったポジティブな声が掛けられます。育児・家事に追われる女性は、幸せを実感している暇がないことも珍しくありません。そのため、善意で掛けられた言葉により、傷つくことがあるのです。
心理学の調査で「新生児は見慣れることで愛情が湧く」ということが分かっています。新生児に対して愛情が湧くまでの時間には個人差があり、それが出産直後の場合もあれば、1週間後であることもあります。
わが子だからといって、無条件で「かわいい!」とならない場合もあり、疲れ果てたママが「かわいいと思えない私はおかしいの?」と苦しむことにもなってしまいます。
血縁関係のない養子縁組家族では、共に暮らしていくうちに深い愛情が生まれます。もしかすると、「愛情は時と共に育まれる」と考えるのが自然なのかもしれません。
パートナーが協力することで
産後うつは防ぐことができる
それでは産後うつを防ぐために、パートナーは何ができるのでしょうか? 産後うつの原因の1つである身体的ストレスは、パートナーの協力により軽減できます。男性は積極的に育児・家事を担いましょう。産休・育休を取得して、ぜひより多くの育児・家事を担ってください。
それにプラスして、心理的ストレスの軽減にも努めましょう。不安や迷いを感じているママの話を聞き、まずは寄り添うこと。子育て期を終えてみれば「そこまで大したことではなかった」と思えるようなことも、育児中の女性は「赤ちゃんが泣き止まない」「母乳がでない……」などなど、様々なことに悩み、苦しんでいます。そして「自分が頑張らなきゃ!」と、視野が狭くなる傾向にあります。
そうした心細さを解消してあげるのも、男性の重要な役割です。出産をしない男性は、「自分は一歩引いて見ることができる立場なんだ」という自覚を持つこと。そしてママに「長い目で見ようよ」「一緒にやっていこう!」と言ってあげる。それができれば産後うつに陥るリスクを減らすことができるはずです。
PROFILE
香山リカ
東京医科大卒。精神科医。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心に、新聞や雑誌など様々なメディアで発言を続けている。著書に『ノンママという生き方 子のない女はダメですか?』(幻冬舎)、『50オトコはなぜ劣化したのか』(小学館)など。
文:川島礼二郎
FQ JAPAN VOL.60(2021年秋号)より転載