わが子をバイリンガルに育てたいけど、複数の言語を学ばせて大丈夫? 専門家が回答!
2021/06/02
わが子をバイリンガルに育てたい、と思うパパママは多い。バイリンガル、マルチリンガルであれば有利なことは間違いないからだ。一方幼時から複数言語に触れることの弊害はないだろうか。専門家の見解をうかがった。
幼いわが子に外国語ってどうなの……?
ヨーロッパではバイリンガル、マルチリンガルは当たり前にいると聞く。将来、子供たちはそうした世界の人たちと対等に交流したり働いたりしていくことになるのだ。
日本でも昨年度から小学校で英語が教科化された。その影響もあって、小学校入学前からわが子に英語を習わせようと考えるパパママはたくさんいる。
反面、日本語もまだたどたどしい子供への多言語教育には、母語の習得への影響などの不安も感じるかもしれない。こうした懸念への回答は研究によって出されつつあるようだ。
赤ちゃんの脳は意外に器用?
ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所は、バイリンガル児の文法習得について研究する立教大学異文化コミュニケーション学部 異文化コミュニケーション学科の森聡美教授から話を聞いた記事を公開した。子供の多言語学習について示唆に富む記事なので紹介しよう。
立教大学異文化コミュニケーション学部 異文化コミュニケーション学科の森聡美教授
子供が母語である日本語のほかに第二言語を学ぶとき、パパママの懸念として「子供が混乱するのではないか」「言葉の発達が遅れるのではないか」といったものがあるだろう。
まず前者の「混乱」について。複数言語を聞いて育つ赤ちゃんの脳についての研究があるのだそうだ。結果、「二つの言語はけっこう別々に処理されている」ことが明らかとなり、「二言語習得を研究している言語学や心理学の研究者なら誰も反論しないのでは」と述べている。
森教授は「混乱」が、「一方の語彙や文法がもう一方の言語に出てくることを指しているのであれば」と前提した上で、それは混乱ではなく、ごく自然な言語使用だとも指摘している。ルー大柴の「ルー語」に近い状態と思えばいいだろうか。
バイリンガルの子供も、基本的には日本語で話すときには日本語の文法に、英語で話すときには英語の文法に則っていることが研究でわかっている。また、語彙が混ざってしまうのは子供の言語能力の問題ではなく、相手に合わせて対応しているのだとする研究もあるらしい。
ちなみにルー大柴の父親は満州生まれ、日本語、ロシア語、中国語、英語を話すマルチリンガルで、このことが「ルー語」にも影響しているとか。
言語発達は個人差が大きい!
次に、言語発達の遅れの心配について。親としてはわが子の発語について、神経質になったり他の子と比べてしまいがちだ。英語を学ばせることで肝心の母語の習得に支障が出ては大変。しかし言語発達遅滞はバイリンガルとは関係なく、聴覚の問題、自閉症など原因は他にあると森教授は語っている。
また、言語発達についてはモノリンガルであってもバイリンガルであっても個人差が非常に大きいとも指摘する。「かなり複雑な文を2歳くらいになった時点で話す子もいれば、3歳まで無言を突き通す子もいる。でも、それがその子の後の能力に影響を与えることはあまりないのではないかと言われています」
バイリンガルという新たな文化
さらに森教授は習得した二言語が影響し合うのは当然のことだとする。その上で、何かほかの言語の影響があるからおかしい、という考え方は、一種の差別といえるのでは、とも語る。ここで私たちは、多言語習得が二重の意味で多文化理解とつながっていることに気づく。
一つめはもちろん、母語以外の言語を学ぶという意味での多文化理解。そしてもう一つ、より斬新なのは、バイリンガル、マルチリンガルとモノリンガルとの共存という多文化理解の視点だ。「バイリンガルとモノリンガルは、違っていていいんです」と森教授は言う。
特に日本人は、モノリンガルであることを前提にして「ネイティブのような」英語なり日本語なりを規範としてきたのではないか。しかし日本でもバイリンガル、マルチリンガルが増えていくことが予想される今後、そうした規範はどこまで通用するだろうか。子供に限らず、まずはサポートする親の考え方や価値観が問われているといえるだろう。
森教授のインタビュー後編を読む!
こちらのリンクからは、森教授のインタビュー後編を読むことができます。
我が子に複数言語を学ばせようと考えている方はぜひご覧ください。
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文:平井達也