夫婦関係や教育にも重要な“育児貢献度”とは? パパの積極的育児は当たり前の時代へ
2020/10/20
父親の育児参加の必要性はたびたび耳にするようになり、認知は広がったと思われるが実態はどうなのだろうか。長年「男性育児」の研究を続けてきたお茶の水女子大学の石井クンツ昌子名誉教授に聞いた。
教育的にも家庭にとっても
いいことづくめ!
イクメンという言葉が、社会に定着して久しい昨今。実際のところ、日本の父親たちはどれくらい育児に関わっているのだろうか。家族社会学を専門とし、30年以上にわたり「男性育児」について研究を続けてきた、お茶の水女子大学の石井クンツ昌子名誉教授は、こう話す。
「研究を始めた当時は、育児をしている男性を探すことさえ難しい状況でした。“男性育児=恥ずかしい”という意識が強かった。私は2005年以降をイクメン世代と呼んでいますが、父親の意識は格段に変わりました。男性育児=良いこととして社会に認識され、文化は醸成したと思います。
一方で、社会のシステムが整っておらず、行動がまだ追いついていないのが現状。欧米や韓国などの東アジアと比べても、夫婦の育児時間の差は開いたままです」。
時間のみならず、育児の内容においても、夫婦間の差は顕著だ。例えば、遊ぶ・入浴・食事を与えるなど、比較的ライトな世話は父親も行うが、おむつ替え・食事作り・後片付けなどの「ダーティーワーク」は母親に任せてしまいがちという家庭も少なくない。
「そもそも母親にも父親にも、得意・不得意はありません。本来は、夫婦が垣根なく、一緒に関わって子育てするのが理想です。例えば、ノルウェーでは、父親も母親も同等に育児をしていますよ」。
共働きが当たり前の現代、「やりたいことだけ」「できることだけ」の育児では不十分。良好な夫婦関係を保つうえでも、男性の育児貢献度が重要になる。
「もともと日本の夫婦は、コミュニケーションが薄い傾向にあります。でも、男性が育児をすることで、コミュニケーション量が増えるきっかけになります。コミュニケーションには2種類あって、1つが事務的なレポートトーク、もう1つが相手の情緒に働きかけるラポールトークです。育児では圧倒的にレポートトークが増えますが、ラポールトークはレポートトークの土台があってこそ成り立つもの。夫婦関係には重要なのです」。
もちろん、男性育児が子供に与える影響も大きい。
「一番重要なのは、父親が関わることで“多様性”を示すことができるという点。夫婦といえども育った環境も性格も違いますから、あやし方や食事の作り方ひとつとっても、やり方が違いますよね。赤ちゃんの頃から人間の多様性に触れさせてあげることで、社会的な発達を促すことに繋がります」。
先輩パパに聞いた、
乳児期の育児貢献度は?
前提として、育児への意識が高い本誌読者を対象に行なったこのアンケートは、おそらく世間の実態より優秀な結果になっている。「育児休業を5ヶ月取得し、育児全般を行った」「0時3時6時の授乳を担当」など、ママと同等に育児をしたツワモノも少なくない。
その一方、「妻の心のケアをもっとしておけば良かった」「仕事が忙しく、妻のワンオペになってしまった時期があった」「互いを理解するのに時間がかかった」など妻への対応や関係性には後悔や戸惑いの声も目立った。
今どきイクメンの
実態アンケート調査
Q1 乳児期(1歳未満)、
育児参加していたほうだと思うか?
おむつ交換、沐浴、寝かしつけ、ミルクの準備は、多くのパパが率先して実践。ただし、あくまで自己評価のため「自分ではやっている方だと思ったが、妻の評価は違った」という声も。
Q2 育児休暇はとった?
育休については、ほぼ半々の回答。期間については様々で、産後2週間など短期集中派もいれば、半年~1年の育休を取得し、育児をほぼパパメインで行っていたという人も。
Q3 乳児期育児において
もっとこうしておけば良かったなど、
後悔はある?
「もっと関わればよかった」という回答が多数。また、「短時間預かり託児所を調べておくべきだった」「育児についてもっと知っておくべきだった」など、産前の情報収集不足を悔いる意見も。
※41名を対象にしたインターネットでの自社アンケート調査(2020年7月実施)
教えてくれた人
石井クンツ昌子さん
立教大学社会学部特任教授、お茶の水女子大学名誉教授。アメリカワシントン州立大学にて社会学博士号取得後、カリフォルニア大学リバーサイド校社会学部で20年間教鞭を執る。1980年代からアメリカで父親の家事・育児参画について研究。主な研究テーマは男性の育児・家事の国際比較。主な著書に「『育メン』現象の社会学」(ミネルヴァ書房)など。
文:曽田夕紀子(株式会社ミゲル)
FQ JAPAN VOL.56(2020年秋号)より転載