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話題の教育経済学から学ぶ、効果的な幼児教育って? 

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ノーベル賞学者が示した
幼児教育の重要性

いまは子育てブームとも言えるぐらい、「子供に与えたあの教材が良かった」「この習い事は意味があった」と、あちこちに教育に関する情報があれふれている時代ですよね。ネットや本などにも、広告半分、たくさん情報が紹介され、いろんな人が様々な意見を発信しています。でも、そこで聞きかじったことを全部やろうとすると、個別には意味があることであっても、やらせる親もやる子供もパンクしてしまいます。また、「多様性」が求められる現在、政治家や評論家の思いつきの提案により、学校現場では、IT・古典・英語・道徳・部活動・体験学習・政治教育など、あらゆることを教えることが求められています。これらは本当に“必要”なのでしょうか? どれも何らかの意義があるかも知れませんが、「だからすべてやるべきだ」では学校現場も疲弊し続けます。情報が溢れている時代だからこそ、それに振り回されないために、家庭でも学校でも、選ぶ基準が重要に
なってきます。その基準の一つとして、教育経済学では教育に関する“費用対効果”に着目しています。



教育の収益率は、その費用対効果の指標の1つです。具体的には、教育投資によって大人になってからの生涯賃金やその他の効用が平均的にどの程度変わるかをデータに基づき計算し、それを不動産投資と同様、平均利回りで表現します。データに基づく指標というかたちで客観視できるようにすることで、社会や家庭の資源を教育に投下することの意義や、他の使い道と比較することを可能にします。

教育効果の研究結果は、社会における平均的効果しか与えませんので、家庭教育でそれをそのまま持ち込むことは禁物です。当たり前のことですが、費用対効果を考えれば、家庭教育は、家庭の状況と子供の性質を踏まえて行うべきものです。研究結果を鵜呑みにするべきではありません。ネット上に溢れる「研究成果」を、子供と接する時間もない夫が見つけてきて、子育て責任を負っている妻に押しつける、という構図が容易に想像できますが、それは本末顚倒です。家庭教育においては、研究結果は参考程度にとどめ、子供のことを最も見ている当事者の日々の観察を尊重し、子育ての心理的負担に配慮すべきでしょう。

教育経済学の研究結果は、平均的教育の収益率の研究では、ノーベル賞を受賞したジェームズ・ヘックマンの研究が有名です。ヘックマンの研究では、同じ投資でも子供の年が低ければ低いほどリターンが大きいということが示されています。経済学において「非認知能力」の重要性を主張し始めたのもヘックマンです。


家庭環境の違いが
学力形成に影響を与える

「中学受験は親次第」なんてことも言われますが、家庭環境が学力の形成に影響を与えることは多くの研究で示されています。ただ、家庭環境の何が影響を与えるかが問題で、経済事情だけで決まるものではなく、教育方針であったり遺伝的要素が関係しているものもあります。

一方、親が貧困だと子供の教育機会を与えられないから子供も大人になったときに貧困になる、という意味合いで使われる「家庭教育が広げる経済格差」や「経済格差の再生産」の問題が社会的に話題になっています。教育経済学は、この構図を変えることにつながる学問です。どのような教育が、大人になって経済的に自立する能力を養えるかを研究することで、貧困の連鎖の克服に繋がるようにしたいと考えています。教育格差の是正を通じて、貧困や格差を縮小するためには、教育が経済的な効果を持つことが大切です。その意味で、教育経済学的視点は、貧困の再生産を防ぐためにはとても大切なものなのです。

赤林英夫
慶應義塾大学経済学部教授。専門は教育の経済学、家族の経済学。1996年シカゴ大学経済学部博士課程修了(Ph.D.)。通商産業省、世界銀行、マイアミ大学等を経て現在に至る。最近の著書に『学力・心理・家庭環境の経済分析-全国小中学生の追跡調査から見えてきたもの』(共編著/有斐閣)がある。

※FQ JAPAN VOL.41(2016-17年冬号)より転載

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