「男性の育休」は子育てしやすい社会への変質のカギ

2016.08.09up
 
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7月に2015年度の男性の育休取得率が発表された。2.65%で過去最高。だが、2017年度までに10%、2020年度までに13%という政府の目標にはほど遠い。新聞社から聞かれた2つの質問に以下のような文書で回答した。記事ではごく一部しか掲載されないので、ここに掲載しておく。

男性が育休を取る意義は何か?

<出産直後の育休>

 出産直後、女性の心身へのダメージは大きい。産後の肥立ち。誰かがサポートしなければ赤ちゃんも母親も生きていけない。頼れる人がほかにいなければ必然的に夫のサポートが必要になる。

 新生児とふれあい、世話をすることで、パパスイッチが入る。親としての自覚が芽生える。親としての自意識において、母親と差が開きすぎることを防ぐ。

 早期に当事者として育児を経験することで、育児という営みに対するリスペクトを感じるようになる。父親がその後の育児生活において、補助的な役割を担うことになったとしても、母親に対するリスペクトを忘れない体質になる。

 何よりも家族のことを大切に思い、それを実際に行動として表現してくれることで、妻は夫に対して安心感を抱くことができる。妻が安心していれば、子育ての安定にもつながる。

 育休を取ったこと自体が、男性の父親としての自覚・自信を強化する。

 育児体験のある男性が増えることで、職場での育児中の親に対する配慮が自然に行われやすくなる。それにより少しずつ社会も変質するはず。

※産後の肥立ちのサポートという意味では、退院後最低2週間。その間は24時間体制でのサポートが必要になる。しかしその後は無理に育休を続けなくても、定時退社を心がけるだけでも効果がある。

※いきなりはじめての家事・育児をしても不慣れで役に立たない。妊娠中から家事の訓練をしたり、両親教室で育児の予習をするなどしておいたほうがいい。

<妻の職場復帰に合わせての育休>

 出産後8週間以内に男性が育休を取ると、もう一度育休を取る権利が生じる。これは妻が職場に復帰するタイミングでの育休を推奨する制度。

 妻が職場に復帰するということは、子供も保育園デビューするということ。妻は久しぶりの職場で浦島太郎状態。子供も初めての保育園でストレスが多かったり、病気をもらってきたりする。朝、大泣きする子供を保育園に置いて職場に向かうのも大きなストレス。そのうえ子供が急に熱を出して呼び出しを受けることも多い。そこで父親が一定の役割を果たさないと、妻は職場復帰直後から仕事と育児の両立でてんてこ舞いになってしまう。せっかく職場復帰をしてもすぐに行き詰まり、結局退職するケースも多い。

※子供が熱を出して呼び出されることはしばらく続くので、できることなら保育園デビュー後数ヶ月、妻の仕事が軌道に乗るまでは、父親は、育休を取らないまでも、いざというときに自分が保育園のお迎えに行ったり、会社を休んだりできるように、仕事量を調整できると理想的。

企業が男性の育休取得率100%や必須化を掲げる意味はあるか。
本来本人の意思で取るものであり、トップダウンなのはいかがなものか?

 意思表示として、目標を掲げることに効果がないわけではないと思う。

 しかし、育休は幸せな家族を築いていく上での手段であり、目的ではないことを忘れてはいけない。数値目標が一人歩きすると、偏差値のために勉強をするような本末転倒が起こることが懸念される。

 実際に育休取得率100%を掲げたいために、通常の年末年始の休みを、無理矢理1日だけ「育休」扱いにする企業もある。そういう会社が本当に男性の育児を後押しする企業かと言えば必ずしもそうではない。

 「育休取得率100%」などが、実を伴わないホワイト企業アピールとして利用される可能性もある。意思表示として悪いことではないが、形の上で「それをやっている」ことで本質的な改善に目を向けさせないという負の効果をもたらすことも考慮しなければいけない。このようなことが「宣伝」に使われるようになると、上で指摘した本末転倒が起こりやすい。

 トップが「口だけ」だと中間管理職は追いつめられる。そのことは拙著『ルポ父親たちの葛藤』(PHPビジネス新書)で描いたとおり。中間管理職のマネジメントスキルに依存するキャンペーンではダメ。

 代替要員がいる大企業であれば育休は推進しやすいが、中小零細企業では難しいのが現実。そもそも日本の企業の99%が中小零細企業であることが、男性の育休取得率の上昇を妨げていると考えることはできる。

 「育休」というのも1つの働き方、1つのライフスタイルにすぎない。特に中小零細企業においては、「大企業型の育休」にこだわらず、それぞれの企業形態、雇用形態、ライフステージに合わせた多様なライフスタイルが認められるような「柔軟な制度」が、一律の「育休強制制度」よりも必要。

 制度としての「育休」にこだわると、本質的な社会の変質を遅らせる可能性がある。もっと柔軟な発想が求められている。

※長時間労働是正も重要だが、現在議論されているような36協定の見直し、すなわち月間残業時間を80時間以内にするという程度の規制では、過労死防止の効果はあっても、女性の企業進出や男性の家庭回帰を後押しする効果はほとんどないと考えられる。月間80時間残業していいということは、1日12時間労働を認めるということだから。毎日9時から21時まで仕事をしていたら、リフレッシュする時間どころか睡眠時間を削るなどしないかぎり、家事や育児に十分な時間を費やせない。36協定の見直しはぜひすべきだが、それが少子化対策になるというのは煽りすぎだと感じる。

0407_01育児・教育ジャーナリスト
おおたとしまさ(TOSHIMASA OTA)
株式会社リクルートを経て独立。男性の育児・教育、子育て夫婦のパートナーシップ、無駄に叱らないしつけ方、中学受験をいい経験にする方法などについて、執筆・講演を行う傍ら、新聞・雑誌へのコメント掲載、ラジオ出演も多数。
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