保育園が大きく変わろうとしている!? 「共創」が2020年度を乗り越えるカギに
2020/05/30
2019年度に保育をめぐって起きた大きな出来事が3つある。「幼児教育・保育の無償化」「幼保一元化の副作用」「新型コロナウイルス感染症による不安」だ。これらの意味を、保育士の視点にも配慮しつつ分析し、2020年度を展望したレポートが発表された。
保育無償化が生む待機児童?
「保育業界に関する2019年度振り返りと2020年度展望」を発表したのは、保育室の運営など 総合保育サービスを提供している株式会社 明日香だ。以下、概要を紹介しよう。
まず保育の無償化。レポートでは、これが保育所間競争を激化させ、隠れ待機児童問題を深刻化させていると指摘する。
待機児童問題は、2016年に全国的な話題となった。国や各自治体が対策に乗り出したことで解消が進み、厚生労働省が2019年9月に発表した「保育所等関連状況取りまとめ」によると前年比3,123人減少した16,772人となり、調査開始以来、過去最小の数字となっている。
しかし、待機児童にカウントされない「隠れ待機児童」問題の解消にはつながっていない。
待機児童にカウントされない理由としては、
①特定の保育所を希望している
②保護者が求職活動を休止している
③自治体が補助する保育サービスを利用している
ということが挙げられる。つまり、例えば(1)きょうだいで同じ保育所に通わせたいができない、(2)保育所に預けられないため求職活動を休止せざるを得ない、(3)認証保育所や自治体の補助がある保育サービスなどにやむを得ず通わせている、などの状態であっても、「待機児童」としてはカウントされないのだ。
無償化により、今まで保育所に預けていなかった家庭でも子どもを預けたいと考える家庭が増えている。さらに、無償化の対象は認可保育所であり、東京都の独自の認証保育所などは上限額が定められており、完全無償ではない。
結果、認可保育所の競争率が高まり、希望の保育所に入れずに「隠れ待機」となる子供が増えるという仕組みだ。一方で定員割れにより閉園、廃業を余儀なくされる認証保育所もあるという。
保育所が学びの場に?
国が定める保育の基本である「保育所保育指針」は2017年に改訂され2018年に施行された。これは新しい学習指導要領が2020年度に小学校で、順次中学校、高校で運用が開始されることと接続している。
子供の「幼児期の終わりまでに育って欲しい姿」を保育士等と小学校の教員の間で共有化し、幼児教育と小学校教育との接続の一層の強化を目指そうとしているのだ。
本来、保育所は福祉施設、幼稚園は教育施設であり、役割が異なる。しかし現在の動きは、幼稚園やこども園と同様に保育所を「幼児教育を行う施設」と明確化し、小学校教育との接続・連携を重要視するものだ。
もともと福祉施設である保育所は、勉強をして認知能力を高める場ではなく、生きるうえで必要な、自ら考えて問題を解決する力(非認知能力)を育み人格形成を培う場であるということを、改めて認識する必要がある。
現在では多くの保育所が独自の教育カリキュラムを導入しているが、保育士にとっては、従来の保育観を改めることを求められかねない。
2020年度のカギは「共創」
2019年度末に新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、2020年4月には緊急事態宣言が発令され、対象地域が全国に広がった。保育所も休園などの措置を講じている。
4月は年度初めであり、保育士が、新しく入ってくる子や年次が上がる子との関係性を構築する時期だ。この関係構築を通じて、保育士は保育所での1日のリズムを作っていく。子供たちとのコミュニケーションが長期で取れない場合、関係構築に時間がかかるという不安は避けられない。
一方パパママにとっては、保育所に通うことで身についた1日の生活リズムを、子供が保てなくなることが心配だ。保育が再開した際にスムーズに生活リズムを構築できるよう、保育士と子ども・保護者とのコミュニケーションが十分なのか、不安が残る。
以上のような状況で始まった2020年度。レポートは、保育所・保育士・保護者が共に保育を創り上げていく「共創」が必要になると述べている。
パパママの間には、保育や幼児教育に対する認識や理解度の差もある。そのため、保育事業者側がわかりやすい情報発信をすることも求められる。また、施設は行政とも連携して、説明会や保護者面談を通じ、対話の場を設けていくことが求められるだろう。