「自閉症は人格。治すものじゃない」映画のモデルとなった父子が今思う、社会の在り方
2024/11/14
ドイツで100万人を動員した映画『ぼくとパパ、約束の週末』の日本公開を記念し、作品のモデルとなった自閉症を持つ少年・ジェイソンさんと、父・ミルコさんにインタビュー。障害とともに生きる家族のリアルと、これからの社会の在り方について伺った。
メイン写真・©Kai Schelenz | nakd agency
「自閉症は一つの人格で、脳の特徴だ。治すものじゃない」
――父・ミルコ
「宇宙物理学者になりたい気持ちは今も変わっていないよ」
――ジェイソン
クラスの前で
弱みと強みをスピーチ
――ジェイソンさんが、自閉症スペクトラム障害(ASD)※1と診断された時の心境はいかがでしたか?
父親のミルコさん(以下、ミルコ):色々な検査をして、診断されるまで随分、時間がかかったよ。私は仕事がとても忙しくて、子育てのことはも教育のことも、ほとんど妻に任せっきりだった。妻も僕もASDと言われても全くピンとなかったのが正直なところだ。
ジェイソン:僕は理解のある両親に育てられたことにとても感謝している。だけど今、はっきりわかるのは、全ての人が僕のように恵まれた環境にいないということだ。
――ASDのことをクラスのみんなの前でスピーチした理由は?
ジェイソン:僕の抱える問題を話せば、みんながそれを完全に配慮して尊重してくれるわけじゃないよ。そんなに単純じゃないんだ。自分の弱みをさらけ出すと傷つくリスクもあった。だけど、自分の強みと弱みを両方とも話したんだ。これを悪用した嫌がらせもあったけどね。でも、それも全部計算に入れていたよ。
――その結果、状況は変わりましたか?
ジェイソン:それまでは、なぜ僕に対してみんなが問題的な行動を取るのかわからなかった。情報不足か? 無知なのか? あるいはただの悪意か? だから僕はこの問題を片付けようと思ったんだ。クラスのみんなの前でスピーチしたことで、どの人と距離を置くべきか、僕に嫌なことをする人間は誰なのか、見分けやすくなったよ。
――ジェイソンさんのような特別な感性を持つ子どもたちが、受け入れられる社会を築くためにすべきことはなんだと思いますか?
ミルコ:既存の社会にインテグレート(統合)するために息子が変わるのではなく、ASDの子どもが当たり前のように普通に学校に行けるように、社会が変わらなければならない。自閉症を治療する非科学的な療法を行う集団もいるけど、自閉症は脳の特徴であって一つの人格。治すものじゃないんだ。
※1 目閉症スペクトラム障害(ASD):特徴は2つあり、人の心の動きがよくわからないので、人間関係が上手につくれず集団になじめないこと。独自の強いこだわりを持ち変化を嫌うため、急な出来事に対処したり新しい環境に適応したりするのが難しいこと。(明治大学子どものこころクリニック院長・山登敬之さんの解説より抜粋)
――19歳になった今、ジェイソンさんが学んでいることは?
ジェイソン:チューリッヒ工科大学(E T H)に通って物理学を勉強しているよ。映画の中でも訪れたスイスのジュネーブにあるCERN※2での実習がとても気に入っていて、いずれあそこに戻りたい。CERNの素晴らしいところは、設備だけじゃない。来ている人がみな真実を求めているところだ。宇宙物理学者になりたいと気持ちは今も変わっていないよ。
※2 C E R N:欧州合同原子核研究機構のこと。でジュネーブ郊外にある素粒子物理学の総本山と言われる。
DATA
映画『ぼくとパパ、約束の週末』 11月15日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
幼い頃に自閉症と診断された息子(10歳)とその父親が、旅を通して親子の絆を深める姿を描いたヒューマンドラマ。生活に独自のルーティンとルールがあり、それらが守られないとパニックを起こしてしまう。ある日、クラスメイトから好きなサッカーチームを聞かれたのに答えることができなかったジェイソンは、56チーム全部を自分の目で見て好きなチームを決めたいと家族の前で言い出す。こうしてドイツ中のスタジアムを巡る約束をしたパパとの週末の旅が始まる。強いこだわりを持つジェイソンは、果たして推しチームを見つけることが出来るのか?
出演:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、セシリオ・アンドレセン、アイリン・テゼル
配給:S・D・P
HP:『ぼくとパパ、約束の週末』
©2023 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH
文/脇谷 美佳子