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子供を虐待から守る方法は? 「感情労働」へのケア不足という問題

近年、児童相談所を巡るニュースが多く報じられている日本。子供を虐待から守るには、どうすれば良いのか? 今の社会に足りないものは何か? 精神科医の香山リカ先生が説く。

批判で問題解決になるのか?
児童相談所問題の背景とは

南青山において、児童相談所を含む複合施設建設が地域住民の反対にあっているというニュースが注目を集めました。当初、「高級住宅地である南青山に児童相談所は不似合い」「児童相談所ができることで地価が下がる」という意見があると報道され、テレビやSNSでは南青山の住民に対して激しい批判の声があがりました。

しかし、それらが不動産関係者主導による一部住民による声で、実は住民の多数派は賛成であることが分かると、報道は下火になりました。無事に建設に漕ぎつけたことを知らせるニュースは話題にすらならない、という有様でした。

また、大変痛ましい児童虐待事件が野田市で発生しました。こちらも児童相談所が教育委員会とともに話題に上り、連日のように担当職員の対応の不手際が報道されたことで、世間の批判を受けました。

本来は女児を助けてあげるべき周囲の大人が、見殺しにしてしまった……それは猛省すべきです。しかし、それは本当にニュースが扱っているように、児童相談所、あるいは担当職員だけの問題なのでしょうか?

本件をきっかけとして、児童相談所を取り巻く過酷な環境が露わになりました。公的機関が発表した数字ではありませんが、1人の職員が50人や100人といった児童を担当しています。

また児童相談所では非正規雇用の職員が少なくない、という事実も見逃せません。公務員をはじめ日本中で非正規職員・社員の割合が増え
ていますが、サービスの受益者からすれば、正規であれ非正規であれ職員であることに変わりありません。担当者が誰であれ、同じレベルのサービスが求められます。ところが現実には、非正規職員の場合、労働の時間・量・質に見合った収入は得られず、そのうえ継続的な雇用が保障されていない場合が少なくありません。

感情労働へのケアが必須
社会システムの再構築を

公務員、特に福祉課などに勤務する職員にも、同じようなことが起きています。生活保護受給者に関わる職員の高圧的な対応がニュースになっていました。精神科医として勤務していると、そうした職務につく方から相談を受けることが少なくありませんが、相談者の多くは真面目で情に篤い方々です。職務を果たす過程で、同情したり、落ち込んでしまうことがあるようです。

一方で、罵声を浴びせられることがあったり、職務を遂行することが必ずしも相談者を救うことに繋がらない場合もあります。端的に言えば、精神的に負荷が掛かる職場なのです。

こうした職種は、頭脳労働・肉体労働とは違った第三の〝感情労働〞と呼ばれる仕事です。しかも外部からは「善良であれ」「上手く処理して当たり前」とみられがちです。社会から高く評価されることも、感謝の言葉を掛けられることも多くないのです。

児童相談所を巡る2つのニュースの奥にある本質は、苦境に陥る児童を守るための社会システムの不備であるといえないでしょうか? 南青山の反対派住民や野田市の児童相談所を非難すれば解決するような、生易しい問題ではないのです。こうしたニュースが流れたとき、表面に見える事象に捉われず、その奥にある本質を見抜く目を持つことが求められています。

PROFILE

香山リカ RIKA KAYAMA

東京医科大卒。精神科医。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心に、新聞や雑誌など様々なメディアで発言を続けている。著書に『ノンママという生き方 子のない女はダメですか?』(幻冬舎)、『50オトコはなぜ劣化したのか』(小学館)など。



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