モンテッソーリ教育のカギは、言葉を使わずゆっくり”して見せる”こと
2008/03/01
「黙って、ゆっくり、して見せる」が、
正しい子供への教え方
何かしている時、「僕もやる!」と寄ってきた子供に、ああだ、こうだと口で説明しながら教えるのは、相良氏いわく、間違った教え方だ。
「幼児期の子供に何かを教える際、もっとも大事なことは”言葉を使わない“ことと、”実際の動きを、ゆっくり、して見せる“ことです」。
このシンプルで、非常に効果的な方法について相良氏は、ある保護者会で会った奥さんの話をしてくれた。「箸を上手に持てない息子さんに、口やかましく教えてもやろうともしない。そんなある日、私が話した通り、子供の横で、”無言で箸を持つ動作をゆっくり、して見せた“ところ、完璧ではないけれど、断然上手に持てるようになったそうです。息子さんは、やらないのではなく、やりたくてもできなかったのです」。
こうした教え方は比較的感情的になりづらい男性の方が向いている。特に全身を使うような大きな動きは父親の方がうまい場合が多い。
また、教えて良いのは、「敏感期に子供がしたがっているが、できなくて困っていること」に限る。「自然の法則」を無視して親の勝手な判断を押し付けてはいけない。
「敏感期は、基本的に先々の日常生活で必要となる感覚や運動、つまり、人間として生きるのに必要な能力を身に付けるために現れますが、その順序は一様ではありません。ですから焦らず、子供の今の敏感期を伸ばすことが大切です」(相良氏)。
さらに、「訂正しながら教えない」、「忍耐強く教える」ことも重要。黙ってゆっくり丁寧に教えても、1度で理解するとは限らず、見てくれない場合もある。そこで「そうじゃない」、「ちゃんと見なさい」と、続けてやらせてみるが、また間違う。そんなことを繰り返すうち「もういい!」といった経験、ないだろうか?
「まだ筋肉を思い通りに動かせない子供が、もたついたり、間違えるのは生理学的にも当り前なのに、大人はすぐイライラしたり、良かれと思って手を出してしまいます。でも、そこですべきことは、とにかく子供の前で何回でも”黙って、ゆっくり、して見せる“ことだけです」(相良氏)。
子供ができるようになっていく過程を愛と忍耐で見守る。それこそが将来的な子供の自主性を育むのだ。
子供の発達のために
「高価な教具」ではなく、
「効果的な教具」を与える
モンテッソーリ教育では、さまざまな独自の「教具」を用いるが、これは敏感期の発達をより効果的にするとともに、前述の家庭内の器物破損防止や子供の危険回避にも役立つ。
「0〜3歳頃の動きは、”具体的に何かをしたい“というより、単に”ある動きをしたい“という欲求によります。だから敏感期に現れた、落とす、投げる、はがすなどの動きに応じた教”具“を得た子供は、夢中で取り組みます」(相良氏)。
相良氏によれば、こうした形で0〜3歳までに必要な運動をした子供は、将来ハサミや包丁を使った際に怪我をするケースはほとんどないという。これは必要な筋肉が鍛えられ、正しい動き方に慣れたことが大きい。また、ここでも決して無理に押し付けないようにし、子供の敏感期に合ったものを選ばせること。子供が熱中する動きと同じ機能の「教具」を用意してあげることが大切だ。
敏感期の運動には多くのパターンがあることから、教具は何種類か用意したいが、これは父親が適切な教具を作ることで十分解決できる。
「必要なのは” 高価“ではなく” 効果“。敏感期に適した機能があれば手作りでも問題ありません」(相良氏)。
DATA
日本モンテッソーリ教育綜合研究所
〒145-0063 東京都大田区南千束2-3-1
TEL:03-3727-9864
PROFILE
相良敦子先生
日本モンテッソーリ協会理事。エリザベト音楽大学教授。九州大学大学院教育学研究科博士課程(教育哲学専攻)修了。滋賀大学教育学部教授を経て、現職。1960年代、フランスにてモンテッソーリ教育を学ぶ。主な著書は『ママ、ひとりでするのを手伝ってね!』(講談社)など。
FQ JAPAN VOL.5より転載