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インタビュー

井浦新の”ジャングル子育て”に目からウロコ!『都会に用はない』

40代に入って活躍の場をますます広げ、6/30(土)から公開される映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』では“鬼の交渉人”を演じて新しい境地を開いた俳優・井浦新。9歳の息子さんとの旅や一番幸せを感じる瞬間などなど、スクリーンでは見られない井浦さんの素顔にFQが迫る!

休みの日は旅と山登り
山がすべてを教えてくれる

子育てするなら都会に用はない――。
きっぱりと井浦さんは言い切る。趣味は山登り。アイゼンを装着して冬山にも登る本格派だ。自然を愛し、自然を畏敬する。小4の息子さんとも山にはよく登るという。

40代に入ってますます活躍の場を広げ、6月に公開される社会派映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』では、沖縄返還における“鬼の交渉人”を演じ、新しい境地を開いた。穏やかでどこにも力みを感じさせない自然体の佇まいから想像を超えたところで、主人公・千葉一夫の激しい怒りを真っ向から表現した。

「主人公の千葉さんに共感するところ? すべてですね。例えば、いつも全力全開なところ。信念を曲げないところ。国が相手だろうと本気で立ち向かうところ。子供と真剣に戯れるところ。飲んだくれて帰って奥さんに叱られるところ。仕事のストレスが頂点に達し朝起こしに来てくれた娘を怒鳴り飛ばしてしまうところ。千葉さんは仕事においては真面目で完璧な大人である一方で、すごくピュアで子供みたいな純粋さがあります。一見この極端な振り幅というのは、矛盾ともちょっと違う。むしろ……千葉さんの柔軟さなんじゃないのかな」。

これまで井浦さんは、顔面ピアスだらけのヤバい男から、割腹自殺を遂げた三島由紀夫、そして倫理観がぶっ壊れた法医解剖医まで様々な役を幅広く演じ、カメレオン俳優とも称される。今回演じた主人公の感情の底流にある激しい怒りを、井浦さんは感情のどの層から引っ張り出してきたのか。

「撮影前に役作りの一環として一人、沖縄に渡りました。主人公が当時見た基地の有り様や文物を見学し、演じる前に千葉さんの“怒り”を腹の底にしっかり貯め込んできました」。4年前にFQが行ったインタビューでは、“旅が人間を豊かにする”と語ってくれたが、沖縄への旅で井浦さんは千葉一夫の足取りをなぞって追体験をした。

息子さんとは、山登り以外にも日本の各地、さらに海外へまで足を伸ばし、親子で同じ時間を共有する。「息子とはボルネオのジャングルへ野生の生き物を見る旅にも出ました。オラウータンやテングザル、木の上で一斉に光を放つ蛍、スコール後の虹。直径90cmにも達する世界最大の花、ラフレシア。息子にとっては驚きの連続だったことでしょう。もう彼も9歳。きっと見たものすべてを記憶の中に鮮明に蓄積していっているのではないでしょうか」。

旅好きの井浦さんの父親から受け継いだDNAは、次の世代の息子へと脈々と受け継がれる。9歳の経験は日々醸成され、感性を豊かに育んでいくのだろう。9歳といえばゴールデンエイジ。神経系器官の発育が著しく、この時期に見たもの、触れたもの、感じたこと、そして覚えた感覚と技術は大人になったときのベースとなる。

「まるでスポンジのように吸収していきます。だからこちらも出していくカードは以前とは変えていっています。小さい頃は山の裾野で遊び半分の活動でしたが、今は頂上に登るのが最大の目的です。その目標を達成し、安全に登りきるためには、山の様々なルールを学ぶ必要があります。例えば足元ばかりを見て歩くことの危険性。神経を全方向に研ぎ澄ませておく洞察力の必要性。崖に近寄ったら崩れるかもしれないという状況判断力。そのための体の動作や身のこなし。もしかしたら、野生の熊にだっていつ遭遇するかもしれません。すべてが命に関わってくること。息子のほうからも『これはなぜ?』『なぜそうしたほうがいいの?』など、行動の意味を真剣に求めてくるようになりました」。

井浦さんも理由や根拠を1つ1つ真正面から応え、山を媒介に親子で対話をする。ここで獲得した体験は血肉となり、本物の智恵となっていく。



一番幸せを感じる瞬間は
長いロケ後の息子とのハグ

子育てにおいて井浦家には、あるルールがある。それは感情レベルで子供に自分の感情をぶつけないこと。そのためには感情をコントロールする必要がある。感情の振り幅が大きいのは感受性の豊かさでもあるが、感情に振り回されてはいけないという。それが井浦さんと奥さんの間の共通認識だ。

「妻の存在というのは、僕にとって、本当に大きいですね。地方ロケで1ヶ月もの長い間、留守にするのはしょっちゅうで、申し訳ないとも思います。でも、僕の状況をちゃんと理解し、すべてを妻は受け入れてくれています。こうして僕が芝居に全身全霊、集中できるのも、すべては妻のお陰。感謝の言葉しかありません」。

本映画でも、沖縄を取り戻すと千葉が立てた誓いを、陰で妻がずっと支え続ける。

「幸せだなあと感じるのは、長いロケから家に帰った時です。玄関の鍵をガチャっと開けた瞬間、すぐに息子は僕だとわかって胸に飛び込んできます。手加減もセーブもなしで思いっきりです。9歳といえば力も強くなり、本気でタックルされたら痛いですよ。でも、これが一番幸せを感じる瞬間ですね。大きくなっていけば、自分の手からどんどん離れていくでしょう。でも息子とのこのハグは、いくつになっても変わらず続けていきたいですね」。



RROFILE

井浦 新 ARATA IURA
1974年、東京都生まれ。98年に主演映画『ワンダフルライフ』で俳優としてのキャリアをスタート。以降、映画を中心にドラマ、ナレーションや雑誌での連載など幅広く活動。主な出演作に、「リッチマン、プアウーマン」(’12、CX)、「アンナチュラル」(’18、TBS)、映画『ピンポン』(’02)、『光』(’17)。『菊とギロチン』が7月公開予定。

映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』
6月30日(土)ポレポレ東中野、7月7日(土)桜坂劇場ほか全国順次公開


1972年、沖縄返還の舞台裏で何が起きていたのか? 米軍の理不尽な占領と闘い続けた実在の外交官・千葉一夫の活躍と苦悩を描いた知られざる真実の物語。

監督:柳川強
出演:井浦新、戸田菜穂、尾美としのり、中島歩、みのすけ、チャールズ・グラバー、吉田妙子、平良進、津波信一、佐野史郎、大杉漣、石橋蓮司
制作・著作:NHK
配給:太秦
公式サイト:映画『返還交渉人 いつか、沖縄を』公式サイト

©NHK


Photo » NATSUKI MATSUO (OHKAWA NAOTO Photography.inc)
Text » MIKAKO WAKIYA
Styling » UENO KENTARO (KEN OFFICE)
Hair&Make » ATSUSHI MOMIYAMA (BARBER BOYS)

メガネ ¥42,500(Savile Row / blinc)/blinc 03-5775-7525
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『FQ JAPAN』VOL.47(2018年夏号)より転載

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