養老孟司の子育て「生きる上で必要な4つの世界」とは?
2018/06/02
日差しが眩しくなり、緑も濃くなり、長期休暇の予定を考え始める頃では? 子供にとって自然から学ぶことはとても多い。東京大学名誉教授 養老孟司氏に自然と子育てについて伺った。
森の手入れと子供の教育
その論理はどちらも同じ
自然って「人間が造ったものではないもの」のこと。人間の体もそうですよね? そう、人間だって”自然”なんです。その辺りを走り回ってる子供なんてその最たるもの。例えばクルマなんかと違って設計図がない。作った親ですらどういう子供を作ったのかよくわかってないんです。だから、それを育てながらどうにか世の中に適応させていく。子育てって、森の手入れをすることと根本的に同じことなんです。
森は勝手に再生しますが、手入れをしないと荒れてしまう。杉林が典型的ですが、間伐や枝打ちなどをしないと、森の中に光が入らなくなってしまいます。木は上に伸びようとするから細長い木になってしまう。根も細くなるし、地面に草が生えてないので森は雨水を吸収できない。そうすると山崩れが起きたり、台風で木が倒れてしまったりということになる。
何の話をしてるかわかります? 子育ての話ですよ。子供は親がいなくても勝手に育つけど、適当な時期に適当に”手入れ”をしてあげないとダメなんですね。子供を育てるのは自然を育てるのと一緒なんです。
「花鳥風月」があれば、
人は楽に生きていける
昔は世界の半分が「自然」で、あとの半分が「人間関係」でした。人間関係と自然には、プラスのこともマイナスのこともある。それぞれに2つの世界があるから全部で4つ。自然は地震や台風のようなマイナスの部分と、天気が良くて清々しい気分になれたりするプラスの部分。人間関係なら、例えば人に褒められたら嬉しいし、逆にけなされたら落ち込む。人が生きていくうえで、本当はそれぞれのプラスとマイナスの4つの世界が存在していなくてはいけないんです。
今の人は自然がなくて人間関係だけ。だからイジメで自殺する人も出てくる。昔の人は平安朝に住んでいた都会人だって、自然から大きな影響を受けて暮らしていた。そのことを「花鳥風月」なんて言っていたんですね。現代人もこの「花鳥風月」を心に持っておくべきだと思います。そうすると人生がとても楽になる。「花鳥風月」っていうのは、人が生きていく上でとても大切なことなんです。
PROFILE
東京大学名誉教授
養老孟司
1937年神奈川県鎌倉市生まれ。医学博士。東京大学医学部卒業後に同大学解剖学教授を務め、95年に退官。元北里大学一般教育総合センター教授、東京大学名誉教授。現在、評論、エッセイの執筆など著述家としても活躍。主な著書に『ヒトの見方』『からだの見方』(サントリー学芸賞)、『「天才脳」の育て方』など多数。2003年に発行された著書『バカの壁』は大ベストセラーとなった。大の虫好きとしても知られ、現在も昆虫採集・標本作成を続けている。
Text >> SUMITO MUNEKATA
FQ JAPAN vol.27より転載