子供の才能を伸ばせる親、潰してしまう親
2016/09/09
子供の才能を
伸ばすのも潰すのも親
彼らとの対話を通じてもう一つわかったことがある。
才能を開花させるレベルが上がれば上がるほど、才能を伸ばすのも親、潰すのも親だということだ。一流を育てるには、親の全面的なバックアップが必要だ。彼らも一様に親への感謝を口にする。
一方で、「親があれしろ、これしろと子供に干渉し始めるとろくなことはない。教えないでほしい」と口を揃える。
「適切なバックアップ」と「過干渉」。レベルが上がれば上がるほど、その差は紙一重となる。子供が歩むのが厳しい茨の道だとするならば、親が歩むのは幅の狭い尾根である。
一方にバランスを崩せば、過干渉の谷底が待っている。別の一方にバランスを崩せばバックアップ不足の谷底だ。レベルが上がれば上がるほど、尾根の幅は狭くなる。
「子供の才能を伸ばすために、褒めた方が良いのでしょうか、厳しくした方が良いのでしょうか」などとよく質問を受ける。
しかしプロたちの本音からもわかるように、答えは単純ではない。幅の狭い尾根を渡りきるための「勝利の方程式」はない。途中で風が吹くかもしれないし、足の裏がかゆくなってしまうかもしれない。その都度その都度、適切な対処を見極めなければならない。綱渡りのような歩みを続けるコツをあえて挙げるなら、「力み過ぎないこと。自分の感覚を信じること」であろう。
それでダメなら、それも運。
なにもスポーツや音楽に限ったことではない。学業においても同様のことが言える。たとえば中学受験。親のサポートが重要であることは言うまでもない。
しかし同時に、多くの塾講師が口を揃える。子供のやる気をそぎ、潰してしまうのは、大概の場合、親であると。
子供の出来が良ければ良いほど親の期待も高くなる。世間一般からすれば羨ましいばかりの成績を取っている子供が、親にけなされ、なじられ、自信を損なってしまっている場合も少なくない。教育熱心過ぎる親が「教育虐待」と呼ぶに等しい仕打ちを我が子にしている場合もある。最悪の場合は思春期を過ぎて、親殺しあるいは自殺に及ぶ。
親は、我が子を思えば思うほどに、間違った方法で子供を守ろうとしてしまう生き物なのだ。
ただし、親が尾根を踏み外したからといって即座に子供の人生がダメになるわけではない。子供はそのことすら肥やしにして人生を歩み続けるたくましさを持っている。心理学の専門用語ではそれを「レジリエンス」と呼ぶ。
それこそまさに「生きる力」と言ってもいい。特別な才能に恵まれなくても、子供は皆、「生きる力」を持っているのだ。
一流のアスリートや音楽家にはなれなかったとしても、有名にはなれなかったとしても、高学歴を手にすることができなくても、幸せな人生を送ることはできる。そのことは、親である私たちが一番良く分かっているのではないだろうか。
世界一の子供に恵まれ、世界一の妻(夫)がそばにいてくれる。そのことを思うだけでいつだって、金メダルにも勝る幸せに、自分が恵まれていると気づくことができる。
家族が幸せに暮らせるのなら他には何もいらないと、胸を張って言える。そんな誇り高き人生を歩むことが、親が子供に示せる最高の手本ではないだろうか。
おおたとしまさ(TOSHIMASA OTA)
育児・教育ジャーナリスト、心理カウンセラー。株式会社リクルートを脱サラ・独立後、男性の育児、夫婦のパートナーシップ、子供のしつけなどについて執筆や講演を行っている。著書に『忙しいビジネスマンのための3分間育児』『パパのトリセツ』など。
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FQ JAPAN VOL.40(2016年秋号)より転載