我が子だけを愛する日本社会の限界
2016/04/05
「教育ジャーナリスト・おおたとしまさの視点」連載第24回。子供はみんな「宝」なのです。
我が子だけ勝ち組になっても生き残れない
親にとって、自分の子供が一番大切なのは当然です。しかし、自分の子供だけが生き残ればいいという発想では、社会は存続できないでしょう。周りの子供たちは、自分の子供と力を合わせて社会を築いていくパートナーとなる存在です。自分の子供だけは強く、賢く育ったとしても、彼らがたくましく、賢くなければ、社会は存続できません。そうなれば自分の子供だって共倒れです。
また、我が子以外の多くの子供たちが社会を受け継いでくれることで、親世代は社会の第一線での役目を終え、余生を過ごすことができるのです。
だから「うちの子」だけでなく、子供はみんな「宝」なのです。
決して誤解してほしくないのですが、子供を産まないことをいけないといっているのではありません。社会全体で、子供を守り、育てることが大事なのです。子供がいないライフスタイルを選んだ人も、間接的に子供たちの未来のためになることをたくさんしていると思います。CO2を減らしたり、ゴミを減らしたりというエコ活動だってそうです。歴史的に貴重なものを次世代のために残すという活動もそうです。
人は誰でも「社会のために」という意識をもっています。社会を良くするとは、目先のGDPを伸ばすことではありません。次世代にとって暮らしやすい社会を築くということです。
子供を私有化する社会では少子化が進む
一方、親は親で、「自分の子」を育てているのではなく「社会の子」を育てさせてもらっている意識をもっと持たなければいけないと思います。子供を「私有化」して考えるのではなく「社会の宝物」として考えて、大事に育てるべきです。「たまたま自分のところへ生まれてきてくれた宝物を大事に育て、立派な1人の大人として社会にお戻しする」という意識です。
社会全体にそのような意識が広まれば、「子供を育てる」というミッションに対する社会からのリスペクトの度合いも上がり、子育てに対する社会的バックアップも自然に強化されると思います。親も親であることにもっと誇りと喜びを感じられるようになると思います。
我が子ばかりを可愛がり、「子供は社会の宝」的意識が希薄だと、子育てに対する社会的なバックアップが脆弱化し、結果、子育てのしにくい社会になり、少子化現象を巻き起こす、というのが私の考えです。
私は強く思います。社会全体が仕事や経済優先の「べき論」の不自然さに気づき、子育てに全力を傾けるパパやママにもっと尊敬の念を持つべきだと。感謝の念を持つべきだと。子供やパパやママに対する社会の目がもっと暖かければ、子育てはもっと楽しくてラクであるはずです。子育てを大変にしているのは、社会のムードなのです。
子育ては最も公共性の高い人間の営みです。子育て中の親は、自分の親としての立場にもっと誇りを持っていいのです。
おおたとしまさ(TOSHIMASA OTA)
株式会社リクルートを経て独立。男性の育児・教育、子育て夫婦のパートナーシップ、無駄に叱らないしつけ方、中学受験をいい経験にする方法などについて、執筆・講演を行う傍ら、新聞・雑誌へのコメント掲載、ラジオ出演も多数。
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