アスリートDADが考える「子供の才能の伸ばし方」
2016/03/10
プロボクサー・村田諒太さんと、プロサッカー選手・中村憲剛さん。父親という顔を持ちながら、プロのアスリートとして成功した2人だからこそ考える、「子供の才能の伸ばし方」、子供の背中を押す「親としてのスタンス」について、語り合ってもらった。
――今のスポーツを始めたきっかけを教えてください。
中村 僕がサッカーを始めたのは、小学校1年生の時でした。
村田 Jリーグがない頃ですね。
中村 そう。だから親もプロにしようとかじゃなく、ボールを蹴るのが好きな僕に、「好きなことをやらせたい」という想いからでした。たまたま入ったのが、全国大会にも出場する強豪チームで、次第に僕のサッカー熱も高まっていきました。遠征もしょっちゅうで、両親の応援がなければ今の僕はなかった。
村田 僕の場合は真逆ですよ。中1のときの両親の離婚をきっかけに、悪いグループとつるむようになって、やさぐれていた僕を見兼ねた当時の学校の先生がエネルギーの発散場所にと、ボクシングを勧めてくれたんです。ところが、ボクシングを始めたら、両親がすごく応援してくれるようになって、父親もよくジムに迎えに来てくれました。親の不仲がきっかけで始めたボクシングが、始めたら親からの応援に変わった。お陰でやめずに続けられました。
――プロのアスリートになれる人の共通点って、何だと思いますか?
中村 “負けず嫌い”。プロアスリートは、負けたら死ぬほど悔しがる連中の集まりです。競争心があるから頑張れるし、真剣になればなるほど負けるのが悔しくなる。そこから勝つ喜びを知っていくんですよね。
村田 そもそも、負けず嫌いじゃないとプロになれないんじゃない? 今、社会では「他人と比較しない」みたいな風潮もありますが、僕らプロは他人と比較される職業。現実的に「比較」はあるし、これって否定できないですよね。世の中は競争社会なのに、学校教育では勝ち負けをつけないって、すごく矛盾してますよね。
――子供の競争心を育てるために、親がすべきことは?
村田 子供を否定しないこと。子供は「好き」という気持ちでやるだけですから。
中村 好きなことでなら、自然に競争心は育っていきますね。
村田 好きなものほど負けたくないですからね。
中村 やっぱり親ができることは、「子供の好きを見つけるサポート」しかないですよね。
村田 そうそう! 間違っても親が子供に何かを押し付けたり、「負けるな!」なんて、けしかけるのは良くないですよね。
中村 子供が小さいうちはいくつかレールを用意して、選択肢を広げてあげるのも親の役目。子供がいざレールを歩き始めたら、親は見守りながらサポートしていかないと。親が前に出るのはよくないと思います。
村田 子供の代わりに親がボールを蹴るわけにもいかないし。
中村 しょっちゅう蹴りたくなります!(笑)
――お子様とスポーツをするときや普段の関わり方で心がけていることは?
村田 僕はスポーツ心理学で学んだ「結果ではなく、過程に焦点を合わせる」ということかな。子供に、親の勝手な都合だけで結果を求めるスタンスはとるまい!と決めてます。
中村 たしかに! 村田さん、すごくいいこと言ってる。うちも「子供がまずどうしたいか?」。それを一番大事にして、それに対してサポートするようにしています。
村田 普段は甘やかしてますけど、何でも褒めるってことはしないです。ちょうど昨日、旅館のゲームセンターで、UFOキャッチャーをやったんです。息子は、アメが何もないところを一生懸命すくっていて、僕は思わず「何もないところをすくっても意味ないじゃん」と。結果、アメは1個しか取れなかったんですが、逆に妻は「1個でも取れてすごいね!」と褒めたんです。僕、それってなんか違うなー、と。だって、何でも褒めたら、それ以上良くならないでしょ?
中村 わかる! 僕もきっと村田さんと同じことを言ったと思う! 何をやっても親が喜んでくれると思うと、子供は正しい判断ができなくなっちゃう気がします。完全否定は良くないとは思いますけど。
村田 同じ意見です。チャレンジして失敗するのはいいことですけどね。
中村 そう。子供の目線でいることも大事だけど、ときに大人目線も大事。1個取れることがすごいんだったら、そこがゴールになっちゃう。ママが褒める時もあれば、パパも褒める時もあって、夫婦でちゃんとバランスがとれていればいいんじゃないかな。
●競争心は、好きなことをとことんやらせることで芽生えるもの。
●「他人と比較しない」教育は考えもの。子供のうちから勝ち負けを意識させるべし。
●“結果”ではなく“過程”に焦点を合わせるべし。
中村憲剛
KENGO NAKAMURA
1980年生まれ。東京都出身。サッカー・Jリーグ、川崎フロンターレに所属し、チームの中心選手として活躍。日本屈指のゲームメーカーとして、2010年FIFAワールドカップ南アフリカ大会に出場した。2005年に結婚。7歳、5歳の2児の父。
村田諒太
RYOTA MURATA
1986年生まれ。奈良県出身。中学時代にボクシングを始め、高校では5冠を達成。2004年に東洋大学に進学し、全日本選手権で優勝。2012年ロンドンオリンピック、ボクシングミドル級で金メダルを獲得。2013年にプロ転向。その後連勝を重ね、激戦階級とされるミドル級での世界戦が期待される。2010年に結婚。4歳、1歳の2児の父。
Photo » MIHO FUJIKI
Text » MIKAKO HIROSE
※FQ JAPAN VOL.38(2016年春号)より転載