北澤豪さんが語る「父親」のポジションはサッカーでいうと監督…?
2014/12/15
北澤家が大切にしている「心の教育」
3人のお子さんに対して、北澤さんが最も大切にしてきたのは、「心の教育」だ。0歳児から、スポーツはもちろん、音楽や絵画など、様々なものに触れさせてきた。そこには、北澤さんのお子さんに対する、ある思いが深く関わっている。
「たとえば、綺麗なものを素直に綺麗だと思うことは大事だし、成長すれば、そこに自分の好みも加わってくるでしょう。幼い頃に音楽を聴かせたり、絵画を見せて、最初はまったく理解できなくても、それを理屈で考えるよりも、感覚で捉えることが大事だと僕は考えているんです。感覚は、幼い頃にしか養えない部分で、しかるべき場所に行って、それらを経験させることが〝感動する〞という部分につながってくると思っていて。
以前、マドリードにあるレイナ・ソフィア国立美術館に行ったんですが、現地の幼稚園児や小学生の子供が課外授業で訪れているんですよ。そこでは、学校の先生とアーティストが、『その絵を作者がどういう思いで描いているのか』という話をしているんです。無差別テロを描いた悲しみの絵を見ながら『なぜ、そういう悲しみだったんだろう』と思いをめぐらせたり……。
そこで行っていることがまさに『気持ちの教育』だと思うのですが、実は子供にとってはそれが一番大事なことなのではないのかとあらためて痛感したんです。そうすることで、人に対する思いや、道徳心が養われる。相手がどう思ってそう言ったのか、それを〝心〞で読み取ってほしい……それは一人の親として、子供に望むところです」。
生活も価値観も多様化し、どんどん変化していく現代だからこそ、何か一本、これだけは変わらないという筋の通った哲学のようなものを持って、子供に接したいと常々考えている北澤さん。
そんな北澤さんが考える、父親というポジションとは――。
「途中までは『監督』だと思っていました。でも、時にはコーチや、サポーターになったりと、状況によって変えていかなければならない。だからこそ、ポジションは1つではないと考えるようになりました。ポジションが変わっても、〝父親〞というものが変わるわけではないですから」。
父親として様々な役割をパーフェクトにこなしているように見える北澤さん。最後に、お子さんにとって完璧な父親でありたいかと尋ねてみた。
「ある程度の年齢に達した時に、子供に『それはちょっと違うんじゃないの?』と感じさせることも必要だと思っているので、あえて隙を作ることもあります。父親がいつも完璧だと子供もやりづらいでしょ?だからこそ、いい加減さを装うこともありますね」。
PROFILE
北澤豪
1968年8月10日生まれ。東京都町田市出身。修徳高校卒業後、本田技研に入社。その後、読売クラブ(現東京ヴェルディ)へ移籍し、日本代表としても多数の国際試合で活躍した。2003年に現役を引退。現在は(財)日本サッカー協会理事兼国際委員、日本フットサルリーグCOO補佐などを務める。また、社会貢献活動にも積極的に取り組み、サッカーを通じて世界の子供たちを支える環境作りを目指している。
DATA
父親というポジション
¥1,458
中央公論新社自身の子育てを率直に綴った、北澤さん初の書き下ろしエッセイ。選手時代の経験を交え、子供たちに必要な“生きる力”とは何かを考える。
Text >> HIROMI ISHII
FQ JAPAN vol.32(2014年秋号)より転載