フェアな夫婦関係を築くには『共通財布』をやめるべし!【パートナーシップの新常識】
2023/01/14
共働きが主流となってきている昨今、お互いが本当に幸せな夫婦の在り方とは、どのようなものになるのだろうか。ここでは、日本における夫婦の現況と、フェアな関係性を築くために重要なポイントについて、『Business Insider Japan』前統括編集長で、ジャーナリストの浜田敬子さんに聞いた。
「130万円の壁」による就業調整が
女性の収入が上がらない要因に
7月13日に発表された、世界の「ジェンダー・ギャップ指数」※1において、日本は総合146ヵ国中116 位と、昨年に続き、主要先進国で最も低い順位となった。分野別で見ると、教育は1位、健康は63位と好順位なのに対し、経済が121位、政治が139位と超低調。浜田さんはこの格差の原因は、男女の賃金格差と指導的地位に就く女性の少なさにあると指摘する。
※1 ジェンダー・ギャップ指数:各国が自国の男女ギャップを把握し、解消することを目的に、「スイス非営利財団世界経済フォーラム」が2006年から毎年発表している調査データ。各国の男女格差を数値化している。
「共働き家庭が増えていますが、表1のように、フルタイムで働く女性は35年間約500万人と横ばいです。それに対し、パートや派遣社員など非正規雇用で働く女性は右肩上がり。2020年時点で700万人に到達しようとしています。多くの企業で育児休業や時短勤務制度が整備されているとはいえ、出産時に退職を選ばざるを得なかった人たちが、子育てが落ち着いて再就職をしようと思っても正社員として雇用されることはなかなか難しい。育休を取得して復職したとしても、時短勤務を利用する人が多く、その分収入は減ります。
さらに、時短勤務を選択してしまうと『マミートラック』というやりがいなどを喪失しかねない働き方になり、そこで退職してしまったり、昇進を諦めてしまうことにもなるので、収入が停滞してしまうのです」。
こうした背景が男女の賃金格差が大きい要因だが、「残業や転勤が前提の働き方では女性が力を発揮しにくい」「一旦退職すると復職が難しい」など、企業側の問題もある。だが一番の元凶は、「130万円の壁」※2などと揶揄される、社会保障制度自体にある。
※2 130万円の壁:夫の健康保険の扶養から外れる境界線の金額のこと。パート年収が130万円を超えると、妻が国民健康保険に加入し、保険料を支払う義務が発生する。また、年収が103万円を超えると所得税を払わなければならなくなるため、「103万円の壁」という言葉もある。
「妻が一定金額以上の収入を得ると、夫の扶養を外れて社会保険料、所得税などを払わなくてはならなくなるため、女性は『働かないほうが得』と感じて就業調整をしています。だからいつまでも女性の年収は低いままで、家庭の収入は男性が大黒柱、女性は補助という図式が変わらないのです」。
家のローンや教育費など、一定の金額を一人で稼がなければいけない男性は心身共に、家事・育児への参加が難しくなる。それゆえ、女性達は仕事に加え、家事・育児をワンオペでこなさなければならない悪循環に陥りがちなのだ。
[表1]共働き世帯等(妻がフルタイム、妻がパート)数の推移
出典:内閣府男女共同参画局「結婚と家族をめぐる基礎データ」
1985年から2020年までの、共働き世帯数の推移。「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」は長期的に減少傾向にあるが、「雇用者共働き世帯(妻がパート)」は長期的に増加傾向に。「雇用者の共働き世帯(妻がフルタイム)」は、1985年以降おおむね横ばいになっている。
在宅ワークで男性の家事参加率と
フルタイム勤務に戻す女性が増加
しかしコロナ禍を受けて、状況は少しずつ変化している。多くの企業でリモートワークなどフレキシブルな働き方が認められてきたからだ。夕方の公園や保育園のお迎えで男性を目にする機会も増えてきた。
「在宅ワークをするなかで家事の大変さを目の当たりにし、宅急便の受け取りや買い物、保育園の迎えなど、今までより、より家事・育児を担う男性が増え始めており、家事・育児の分担の見直しが進むのではないでしょうか。一方で女性側も、リモートだと通勤が不要な分、時短からフルタイム勤務に戻す人が増えています。つまり、女性がキャリアを諦めなくて済む状況が整ってきたということです」。
加えて、「女性がキャリアを諦めないことが、夫婦にもたらすメリットは大きい」と浜田さん。なぜなら、今は3組に1組が離婚※3する時代。その多くは子供を母親が引き取るが、母子世帯の収入は表2のように平均200万円と低く、養育費を受け取れていない世帯が4分の3を占める。女性が経済的に自立できていれば、離婚に限らず、夫が不慮の事故や病気で亡くなるリスクにも備えることができる。
※3 3組に1組が離婚:厚生労働省の「人口動態統計」によると、2020年の年間婚姻件数は52万5507組。うち離婚件数は19万3253組で36.8%となった。さらに、夫婦が結婚35年後までに離婚する確率である「35年累計合計離婚率」も2020年時点で約28%というデータが出ている。
さらに、メリットは男性にとっても大きい。転職を考えた時、「自分が稼がなければ」というプレッシャーが少なく、いわゆる“嫁ブロック” ※4も発動しにくくなるため、キャリアの選択肢が広がるのだ。
※4 嫁ブロック:収入の減少などを心配して、夫の転職が妻の反対により阻止されること。
[表2]ひとり親世帯の状況
出典:内閣府「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」
2019年に調査した、ひとり親世帯の状況。母子世帯の平均年間就労収入は200万円と低く、養育費の受取率はわずか24.3%に留まっている。
夫婦が同じくらい稼ぎ
同じくらい家事・育児を負担する
これらの現状から鑑みて、今、夫婦がフェアなパートナーシップを築くために必要なこととは。「夫婦が同じくらい稼ぎ、同じくらい家事・育児も負担する在り方が、本当に対等な夫婦関係と言えるのではないでしょうか。そうすれば、家計も共通の口座にお互い一定金額を入れて、後は自由になるお金を持つことができます。私は、自分が欲しいものを自分のお金で買えることは、根源的な欲求だと考えています。『共通財布』を持つことなく、お互いの収入・支出を逐一明かさなくてもいい状態はある意味『自由』を確保しているとも言えます。
一方で、自分達のキャリアがどうありたいか、家事・育児をどう分担していくかについては、もっと夫婦で交渉する必要があります。つい後回しにしがちですが、夫婦が話し合い変わっていくことは、二人の関係性を対等にするだけでなく、社会を変える一歩にもなります」。
例えば、夫が職場で育児休業を取る第一号になれば、後輩の男性達も取りやすくなる。その人数が増えるほど、上司や企業も変わっていかざるを得なくなるからだ。これまで育休や時短勤務で肩身の狭い思いをしていた女性達も、罪悪感を抱かずに済むようになる。
もちろん本人にとっても、貴重な育児機会のロスを防ぐことにつながるだろう。いわば、誰もがハッピーになれる第一歩。浜田さんは最後に、熱いエールを贈ってくれた。「ぜひFQ読者のみなさんも勇気を出して、職場でファーストペンギンになってください」。
教えてくれた人
浜田敬子さん
ジャーナリスト。1966年山口県生まれ。1989年に朝日新聞社に入社し、2014年、『AERA』初の女性編集長に就任。2017年から、オンライン経済メディア『Business InsiderJapan』日本版統括編集長に就任、20年に退任。 著書に『働く女子と罪悪感』。『羽鳥慎一モーニングショー』『サンデーモーニング』でコメンテーターを務めている。
文:笹間聖子
FQ JAPAN VOL.64(2022年秋号)より転載