第2子を考えている夫婦必読! 妊活を始める前のコミュニケーションに大切なこと
2021/10/12
夫婦関係に限らず、ビジネスやプライベートにおいても、何事もコミュニケーションをとって進めて行くことが大切な今。良好な夫婦関係を作るためにどうしたらよいだろうか。精神科医の香山リカ先生に話を伺った。
夫婦の性生活は
ベールに包まれていた
前号に続いて、昨年の11月末、厚生労働省が発表した「2022年度から不妊治療の保険適用を拡大する方針」というニュースの背景にある心理を中心にお話して行きます。復習のため確認しておくと、この厚労省の方針とは「現在は保険外となっている体外受精や顕微授精の保険適用を検討する。保険適用までの間は、現行の助成制度を拡充し、2回目以降の治療への助成額を30万円に倍増する」というものでした。
この新しい方針自体は、不妊に悩む夫婦・カップルにとって朗報だと思いますが、ここでは触れられていない、より一般的な家庭にもある「妊娠・妊活を困難にしているもの」とは一体何なのかを、まずは探っていきましょう。
今では「妊活」という言葉が広く使われていますが、一般化したのは確か10年ほど前だったと記憶しています。かつての日本では、妊娠とは結婚すれば自然にするものであり、「授かり物」という言葉があったくらいでした。妊活=妊娠を目標に性行為をする、ということですが、かつての妊娠は愛情の結果である、とされていたわけです。しかし、過去の日本が美しかったわけではありません。顕在化しなかっただけで、男性による一方的な性交渉や性暴力は、ずっと存在していたでしょう。
むしろ近年ようやく女性が声を上げられるようになり、こうした事柄に対する抑止力は高まっていると考えられます。コミュニケーションの1つとしての性生活ではなく、男性が「性欲処理」として妻に対して性行為を行う。それが平気で黙認された時代があったということですね。
このことからも分かる通り、家庭におけるセックス、その結果としての妊娠は、長いことベールに覆われていました。夫婦のコミュニケーションとは違うものとしてずっと存在していたのに、話題にされることがなかった。
それが今になって、妊活の難しさとして、その歪みが表れているのではないでしょうか? 夫婦関係に限らず、ビジネスやプライベートにおいても、何事もコミュニケーションをとって進めて行くことが大切になってきています。ところが、まだ古い価値観からアップデートされていない人が存在している。そのギャップが、一部の夫婦を苦しめていると考えられます。
第2子妊活を
夫婦関係を見直す機会に
私が診察した患者さんの例をお話しましょう。60歳くらいの女性の方が、コロナ禍になって「誰とも話ができない……」と相談にいらっしゃいました。「誰とも話ができないなら、一番身近にいらっしゃるご主人とお話したら?」と勧めると、「何を?」という回答が返ってきて驚かされました。その患者さんは「夫がどういう人なのか分からない」と言います。
それでも多くの場合、子供が2人・3人いたりします。夫とは深い会話をしたことがない。妻の役割は夫が仕事に集中できるようにサポートをすること。それ以上でも以下でもない関係のまま、ずっと来てしまったのでしょう。
妊活を始める前に、何のためにするのかを、あらかじめ夫婦でコミュニケーションをとっておくことが大切です。今さら言うまでもありませんが、女性の場合、妊娠・出産する際には、仕事を休む必要もありますし、そうでなくても身体的・精神的に大きな負担が掛かります。「夫婦で家庭を築き、育児を通じて夫婦関係を深めていきたい」といった形でお互いが納得できれば、妊活も上手くいくはずです。
第2子妊活の場合、特に男性側は「なんとなく」で進めてしまいがちですが、今1度、妻との関係性を見つめ直す良い機会と捉えて、意識的にコミュニケーションをとってほしいと思います。「2人目っているかな?」という会話から始めれば良いのです。
夫婦で家族観を話し合ったり、子供が1人だと将来こうなる、もし来年に2人目が生まれたら10年後は……といった形で、自然と会話が膨らんでいくはずです。その結果、「家族3人で良いじゃないか」、となっても良いのです。
子作りありき、世の中がこうだから、ではなく、夫婦の共通理解を獲得していくなかで「2人目が欲しい」となったならば、きっと第2子妊活も上手くいくはず。繰り返しになりますが、妊活は夫婦関係を見つめ直す良い機会です。妻とコミュニケーションをとって、お互いが納得したうえで進めて欲しいと思います。
PROFILE
香山リカ
東京医科大卒。精神科医。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心に、新聞や雑誌など様々なメディアで発言を続けている。著書に『ノンママという生き方 子のない女はダメですか?』(幻冬舎)、『50オトコはなぜ劣化したのか』(小学館)など。
文:川島礼二郎
FQ JAPAN VOL.59(2021年夏号)より転載