悩んでいるのは女性ばかり? 精神科医が教える、夫婦で妊活を乗り越えるポイント
2021/07/15
妊活も性生活も悩んでいると来院するのはほとんどが女性。女性だけが背負い込むべきものではないのに、なぜだろうか。「妊活」と「性生活」をテーマに精神科医・香山リカ先生にお話を伺った。
当事者意識を持つことが
夫婦で取り組む妊活の第一歩
昨年の11月末、厚生労働省が2022年度から不妊治療の保険適用を拡大する方針であることが明らかになり、話題になりました。
「現在は保険外となっている体外受精や顕微授精の保険適用を検討する。保険適用までの間は、現行の助成制度を拡充し、2回目以降の治療への助成金を初回と同じ30万円にする」というものでした。今回は、この話題と関連する「妊活」と、それに関連して「性生活」をテーマに、お話をしていきましょう。
私が働いている診察室にも、妊活や性生活に悩んでいる方が来院されますが、ほとんどの場合は女性です。これが大きな問題だと感じています。本誌読者の皆さんはお分かりだと思いますが、妊活は、女性だけが背負い込むべきものではありません。
検査を受けてみれば、男性側に原因がある場合も当然あります。それでいて現実には、女性だけがストレスを溜め込んでいる例が多く見られます。妊活は夫婦で取り組むもの。言い換えれば、男性側が当事者意識を持つこと。それが妊活の第1歩です。
妊活においては、ホルモン調節のために薬を飲んだり、仕事や家庭、妊活のスケジュールを調整する必要があったりと、特に女性には心身両面で少なからぬ負担が掛かりがちです。さらに女性を追い詰めてしまうのが「子供ができないのは女性に問題があるのでは?」という世間の思い込みです。
不妊の原因が全て女性にあるわけではないのに、「努力が足りないの?」「私の身体に問題があるの?」と、知らず知らずのうちに自分を責めてしまう女性が少なくありません。
コロナ禍にある今、働いている・いないに関わらず、女性にかかるストレスは増えています。自分が感染しないよう気をつけるだけでなく、家の中を消毒したり、洗濯が増えたり、在宅勤務になれば昼食の用意が負担となる場合も多いでしょう。
妊活や性生活についてだけでなく、妻が頑張ってくれていることに対しては、素直に感謝の気持ちを表しましょう。日頃からのコミュニケーションを大切にして欲しいのです。それができていれば、妊活や性生活といった、1歩踏み込んだテーマにも、2人で向かっていけるはずです。
溢れる情報に振り回されず
コミュニケーションを大切に
言うまでもないことですが、妊娠するには、性行為を行い受精する必要があります。ところが、私が勤務している診療室にいらっしゃる方の中には、妊娠と性行為の関係を正しく把握できていない方もいらっしゃいます。
先日、親子向けの性教育を題材にしたコミックエッセイ『おうち性教育はじめます』の書評を書いたのですが、その本を読んでみても、若者だけでなく、家庭を築いている大人でも、性について詳しく知らない、あるいは偏った知識を持ってしまっている人が少なくない、と感じます。
性に関する話題への忌避的な感情もあってか、「結婚すれば子供はできて当たり前」といったような社会通念が一部で共有されてしまっているわけですが、もちろん、受精しない限り妊娠は起こりません。この誤った認識は性に関する教育の不備が一因だと思います。
中学校の保健体育の教科書を読んでみても、知識としての受精と妊娠しか記載されておらず、具体的な行為としての性が抜け落ちています。
家庭や学校で正しい知識を得られないからと自分で情報を集めようとすると、今度は別の問題に直面します。妊活や性行為に関する誤った情報が、特にインターネットを中心に氾濫しているのです。そのため、正しい情報に辿り着くのが難しくなってしまっています。
また、たとえ正しい情報であっても、それに振り回されてはいけません。妊活を日常生活の中心に据えてしまうと、食生活や運動に至るまで、全てを支配されてしまいます。これではストレスが増えるばかりです。
妊活にせよ性行為にせよ、相手があってできるもの。大切にすべきは、パートナーとのコミュニケーションです。相手の心と身体を思いやり、理解することから始めましょう。そのうえで正しい情報を収集して、二人が納得できる方法を焦らずに探していくと良いでしょう。
PROFILE
香山リカ(RIKA KAYAMA)
東京医科大卒。精神科医。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心に、新聞や雑誌など様々なメディアで発言を続けている。著書に『ノンママという生き方 子のない女はダメですか?』(幻冬舎)、『50オトコはなぜ劣化したのか』(小学館)など。
文:川島礼二郎
FQ JAPAN VOL.58(2021年春号)より転載