井浦新&永作博美「親が子供にしてあげられること」
2020/10/16
10/23(金)に公開となる、河瀨直美監督の最新作『朝が来る』で、特別養子縁組で子供を授かる夫婦役を演じた、井浦新さんと永作博美さん。実生活でも“親”であるふたりが、子育てをするうえで大切にしていることを語ってくれた。
子供の存在を尊重しているから
間違いも共に受け止める
どこかイノセントな雰囲気と親しみやすさ、磨き抜かれた演技力を兼ね備え、根強い人気を誇る永作博美さん。いっぽうの井浦新さんは、年を重ねるにつれ存在感と輝きを増す、不思議な魅力をもつ俳優だ。おふたりは、このたび公開される映画『朝が来る』に夫婦役で出演し、息があった演技を披露。実生活では、それぞれ家庭をもち、パパあるいはママとして子供を育てている。
一般的な職業と違い、ひとたび撮影が始まれば、在宅できる時間も限られてしまうのが役者業。そうした特殊な職業に就きながら、おふたりは子供たちと確かな絆を育んできたようだ。
井浦「撮影が始まると、当然ながら現場にいる時間が長くなり、子供と過ごす時間があまりもてなくなります。だからこそ、一緒にいられる時は積極的に関わるようにしています。こちらから話しかけて会話するだけでなく、けん玉とかこま回しとか、家でもできる遊びを一緒にやっています。けん玉もこま回しも、今の子はほとんど学校で教わらないと知ったので、“じゃあ、家庭で教えよう”と。学校では学べないことを、意識的に一緒にやりつつ、コミュニケーションをとっています」
永作「なかなか家に居られなくても、きちんと気にかけてあげたいですよね。私はどんなに忙しい時でも、『おはよう』『ただいま』といったあいさつだけは、必ずするようにしています。声をかけた時、“いつもと様子が違うな”、“なにか悩み事があるのかな”と感じたら、話を聞くようにもしています。ところで、撮影現場でも話題になったけれど、新さんはアウトドア派でもありますよね? 『子供を連れて山に登ってる』と聞いて、すごいな、お子さんはうれしいだろうな、って思いました」
井浦「そうなんです。僕がアウトドア好きということもありますが、まとまった時間がとれると、家族を連れてトレッキングや旅行に出かけています。自然のなかに身をおくことで、初めてわかることって色々とあると思うんです。例えば山では、気をゆるめたばかりに危ない目に遭う場合があります。子供に危険と隣り合わせの環境を体験させることで、自然の偉大さなどを肌身で感じてもらいたいんです」
永作「甘やかすばかりでなく、あえて厳しい経験をさせるのも大事ですね」
井浦「それに、ときには厳しく接する必要もあるのかな、と。永作さんは、お子さんに厳しくすることってあるんですか?」
永作「もちろん、ありますよ! 例えば子供って、その場逃れのために嘘をついてしまうことがありますよね。“もしかしたら、嘘をついているかも?”と思ったら、こっち向かせて、子供の心や真実がどこにあるのか確かめるようにしています。嘘を見過ごすと親としての威厳が損なわれるので、もう真剣です(笑)」
井浦「なにか問題が起きた時、子供の『やっていない』という言葉をむやみに過信するのは、たしかに良くないですよね。たまに『うちの子がそんなことするはずない』と、必要以上に子供の肩をもつ人がいますが、そう考えるのは、子供を信じているわけでもなんでもなく、自分が傷つくのが怖いから。真実から目を背けてるだけなんです」
永作「そうですね。なにか間違いを犯してしまったなら、一緒にその事実を受け止めて話し合わないと」
井浦「事実を受け止めて話し合うのは、子供の存在を尊重しているからこその行動です」
永作「話し合いながら一連の出来事を細分化し、どの行動が正しかったのか、もしくは間違っていたのかをジャッジしてあげたいですね。子供の判断力には未熟な部分があるので、やっていいこと、悪いことの線引きを大人がやってあげる必要があると思います。早い段階で、どんな行動が悪いのか、人を傷つけてしまうのかを教え込むことで、将来子供が生きやすくなるはず」
井浦「子供の将来を考えると、過保護にならないようにしたいですね」
永作「子供の数が減っている今、子供に手をかけすぎてしまう傾向があるけれど、グッとこらえる必要があるのかな、と。親が早い段階で子離れして、子供が自力で生きていける力を育んであげるのが大切だと思います。親子とはいえ、適度な距離感をもって接したいですね」
養子縁組が珍しくない欧米と
理解が進んでいない日本
映画『朝が来る』は、現代の日本社会にひそむ問題を絡めつつ、家族のあり方について問う作品だ。本作の主要人物は、「特別養子縁組」で子供を授かった夫婦と、自らの意思に反して子供を手放した中学生。彼らが葛藤する姿、希望を見出すまでの姿には、胸に迫るものがある。本作でメガホンをとったのは、世界的に高い評価を受ける名匠・河瀨直美監督。永作さん、井浦さんが撮影中に経験した、印象深い出来事をお話いただいた。
永作「新さんが演じた清和と、私が演じた佐都子は、実の子をもつことができず、『特別養子縁組』という制度を選択します。『特別養子縁組』は、日本ではあまり馴染みのない制度ですが、河瀨監督によると欧米諸国では、養子を迎えることが珍しくないそう。日本は養子縁組に対する理解が進んでいない国なんですね。今回の役柄を演じるにあたり、まずは養子縁組への理解を深めようと、民間団体でお話を聞いたり、養親になるための模擬面接を受けたりしました。これらをとおし、養子を迎えるかどうかは大きな岐路であること、決断にあたっては恐れも感じることがわかりました」
井浦「清和、佐都子の間に子供ができなかった原因は、清和がもつ『無精子症』という病気にあります。作中では、『無精子症』と診断された清和の戸惑い、佐都子に対して感じる責任、『特別養子縁組』を選択するまでの葛藤を克明に表現する必要がありました。河瀨監督は、限りなくリアリティに富んだ表現を役者に求めてくださる監督です。監督の真摯な求めに応じるようなかたちで、僕ら俳優も嘘がない、素直な感情に沿った演技を追求できましたね。作品そのものも力強く、演じがいがありました」
永作「編集作業も想像をはるかに超える大変さだったと思います。『特別養子縁組』が珍しくない欧米諸国と、『特別養子縁組』の例が少ない日本の間には“壁”があり、それを少しでも埋めるのが、今回の作品における課題だったはず。でも編集された本作を観た時、欧米諸国の人々、日本の人々の双方に向けたメッセージを感じることができました。どのシーンも、見逃すことができない重要なシーンに仕上がっています。ぜひ本作をとおし、メッセージを感じていただきたいですね」
DATA
映画『朝が来る』
2020年10月23日(金)ロードショー
一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」というシステムを知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。当時14歳だったひかりとは一度だけ会ったが、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。渦巻く疑問の中、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか──?
監督・脚本・撮影:河瀨直美
出演:永作博美 井浦新 蒔田彩珠 浅田美代子 他
原作:辻村深月『朝が来る』(文春文庫)
配給:キノフィルムズ/木下グループ
HP:映画『朝が来る』公式サイト
©2020「朝が来る」Film Partners
PROFILE
井浦 新
1974年、東京都生まれ。1998年に主演映画『ワンダフルライフ』で俳優デビュー。以降、映画を中心にドラマ、ナレーションや雑誌での連載など幅広く活動。主な出演作は、ドラマ「リッチマン、プアウーマン」「アンナチュラル」「なつぞら」、映画『ピンポン』『光』『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』など。
永作博美
1970年、茨城県生まれ。1994年に女優デビュー。映画『八日目の蟬』で、第35回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞、第54回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞。主な出演作は、ドラマ「週末婚」「Pure Soul~君が僕を忘れても~」、映画『人のセックスを笑うな』『四十九日のレシピ』『ペット』シリーズ(日本語吹き替え)ほか、CMも多数出演。
写真:松尾夏樹(大川直人写真事務所)
取材・文:緒方佳子
スタイリング:上野健太郎[井浦新]、鈴木えりこ[永作博美]
ヘアメイク:樅山敦(BARBER BOYS)[井浦新]、福沢京子[永作博美]
井浦新 着用衣装:ジャケット ¥53,000、パンツ ¥32,000(ともにキャプテン サンシャイン)、Tシャツ ¥6,000(エルネスト クリエイティブ アクティビティ/マイトリー)、メガネ ¥74,000(ミスター ライト/ブリンク外苑前)、シューズ ¥16,000(アディダス オリジナルス/アディダス ジャパン)
永作博美 着用衣装:ワンピース(ワイエムウォルツ/マーヴィン&ソンズ 03-6276-9433)、パンツ(ジョンスメドレー 03-5784-1238)
FQ JAPAN VOL.55(2020年夏号)より転載