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遺族や被害者の会見は本当に必要ですか? 子供の交通事故のニュースから私達が考えるべきこと

東京・池袋では暴走した自動車にひかれて自転車の親子が、滋賀県大津市では散歩中の保育園児が、交通事故の犠牲になった。罪のない子供の命が一瞬にして奪われる事故が相次ぎ、メディアやSNSで様々な議論が交わされている。最近のニュースから考える、香山先生のコラム。

二次的PTSDに注意!
心のコントロールが大切

本題に入る前に、この度の事故で亡くなられた方々とそのご遺族に哀悼の意を表したいと思います。

重大な交通事故や自然災害が頻発している昨今ですが、それでもその被害者・被災者が身近にいることは稀であり、多くの場合、私達はそうした事柄をメディアを通じて知ることになります。

ところが私達は、自分とは直接関係のない誰かが被害者・被災者になったとき、苦しみ、悲しみ、怒りなどを覚えることがあります。

これは認知心理学の世界では、人間らしさの1つの証であるといわれています。人間だけが持つ尊い機能ですが、それが強すぎるとダメージを受けてしまうのです。それが二次的PTSDです。

テレビで災害の映像を見たことで視聴者に影響を与える。間接的に受けたダメージで重いトラウマ後遺症が残るなどの研究結果が出ています。東日本大震災の後にも、二次的PTSDにより日常生活が送れなくなってしまった例が多数報告されています。

介護士や福祉士、保育士などの社会福祉系職種に就く人達は、仕事を通じて二次的PTSDを受けやすい傾向にあります。これは「共感疲労」と呼ばれ、社会問題化しています。

共感疲労の原因の一つとして、職場で日常的に厳しい状況に置かれた人々に接することで「自分だけが楽しんではいけないのではないか」、「自分は幸せで良いのだろうか」と考えてしまうことがあります。それを避けるには、泣きたくなったり、悲しくなったとき、一歩離れたところから自分を眺めてみる、俯瞰してみると落ち着いて我に返ることができます。最も大切なのは「自分の生活を楽しんで良いのだ」と考えることです。



被害者・被災者が必要な
サポートとは何か

では不幸にも、身近な誰かが被害者・被災者になってしまったら、どうすれば良いのでしょうか?

自然災害の被災者のなかに、子供を失ったご両親がいらっしゃいました。そのご両親に対して友人が「泣いていると天国の子供が悲しむよ」と励ましの言葉を掛けたそうです。元気を出して欲しいと願う善意から出た言葉でしょうが、そう言われたご両親は「何故そんなことを言えるのか?」と深く傷付いたそうです。このように心に傷を負っている被害者・被災者は、第三者から何を言われても傷付いてしまう傾向があります。

感謝されるのは「亡くなった子のために、あなたのために、祈っています」という言葉。「悲しみを理解している」ということを暗に伝える言葉だからでしょう。日常のサポートを申し出れば、それも助けになるはずです。「ご飯たくさん作ったから持って行こうか?」、というような、さり気ない声掛けも良いでしょう。

時が経つと、稀に被害者・被災者が自ら、これまで心の奥底に溜めていた苦しみや、悲しみを話し出すことがあります。そんな時に、無理に結論を出そうとしたり、気の利いたことを言う必要はありません。そばにいて話を聞いてあげたり、現実的な手助けをしてあげたりするのが最良のサポートです。

遺族や被害者の会見は
本当に必要なのか?

大津市の交通事故の直後、被害者であるはずの保育園の園長が記者会見したことがニュースで取り上げられ、その是非がSNSで大きな話題になりました。被害者に会見させ、下世話な質問をして、泣き崩れる絵を垂れ流す……こんな番組が日々放送されているのは、果たしてメディアだけの責任でしょうか? もちろんマスコミの質に問題があるのは明らかです。しかし、こうした番組をスポンサードする企業ももちろんですが、低俗だと思いながらも、こうした番組を嬉々として視聴している視聴者にも責任の一端があります。視聴者の質が問われているのです。

また、誰に責任があるのかといった、犯人探しのような論調が目立ったことも気になります。家族が責任を追及するのは理解できますが、社会が一斉に犯人探しを始める風潮・論調は、社会に悪影響を与えます。今回の事故を受けて、ある保育園が散歩の時間を希望者制に変更したという報道も見掛けました。何か事が起こったら徹底的に責任を追及されてしまいます。それが予想できるから、本来すべきことまで止めておこうと現場は身を守るしかなくなるのです。それは子供にとって良いことなのでしょうか? アクシデントはゼロにしたいし、責任の所在は明らかにすべきです。しかし、些細なことまで問い詰める社会の風潮は、いかがなものでしょうか?

私達市民の立場からもできることがあります。そもそも育児とは、両親と保育士だけが行うべきものではありません。社会全体で子供を育てる、そういう意識を持つべきです。散歩をしている園児の集団を見かけたなら、率先して道を開けて誘導する。自動車を運転していたなら、即座に停まって道を譲る。こうした行為を自然とできる社会人が増えてほしいと思います。

悲しい話題の最後に一つ、良い話をご紹介しておきます。他人の責任を問う、責任の所在を追求する、自分は責任を引き受けない……そうした態度が蔓延している昨今。そんな風潮に反して、SNS上では「#保育士さんありがとう」というハッシュタグが付けられた投稿が数多く見られました。殺伐とした日本にも、リスクある仕事を引き受けてくれる人々に対して感謝を表す人々がこんなにいるのだと思うと、勇気づけられます。



PROFILE

香山リカ RIKA KAYAMA


東京医科大卒。精神科医。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心に、新聞や雑誌など様々なメディアで発言を続けている。著書に『ノンママという生き方 子のない女はダメですか?』(幻冬舎)、『50オトコはなぜ劣化したのか』(小学館)など。


Text >> REGGY KAWASHIMA

FQ JAPAN VOL.51より転載

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