時事・コラム

あなたはビジョンを描けてますか? 人生の9回裏まで楽しく生き抜く教育

世界最高水準の長寿国・日本は、現在平均寿命が90歳に迫る。しかし、退職後に90歳までしっかり生きて行くビジョンを持っていない日本人が、特に都会に充満している。自分が自分の9回裏までどう生きるか考えたことはあるだろうか。『里山資本主義』の著者、藻谷浩介氏のコラム。

平均寿命が
90歳に迫る現代

世界最高水準の長寿国・日本。2017年時点で50歳の男性は今後平均83歳まで、50歳の女性は平均88歳まで生きるとされる。これはつまり、「あなたは普通に90歳までは生きる可能性がある」ということだ。

以下、人生を野球にたとえることをお許し願いたい。野球の試合は序盤(1〜3回)、中盤(4〜6回)、終盤(7〜9回)に分かれており、9回裏で同点であれば延長戦に入る。人生も、10年を1回と考えれば、野球のように9回まではあるものと考えておいた方がよい。特に女性はそうだが、かなりの確率で延長戦も経験することになる。

折しも昨今のプロ野球では、ピッチャーの駒不足が深刻であり、終盤に大量点が入って試合が大きく動くのが普通だ。6回までリードしていても安心などできない。人生はどうだろうか。序盤に「いい教育」を受け、中盤で「いい仕事」をするのが大事だと思っている人が多いようだが、終盤(60歳以降)はどうするのか。試合終盤に投げるピッチャーの不足がほとんどの球団の悩みであるのと同じく、退職後に90歳までしっかり生きて行くビジョンを持っていない日本人が、特に都会に充満しているように、筆者には思える。

 

人生の勝利者とは?
お受験中心の落とし穴

現在の年金制度は、田中角栄内閣時代に完成されたものだが、当時の男性の平均寿命はまだ60代だった。60歳で会社を定年退職しても、その後10年足らずで生涯を終えるならば、退職金と年金で余裕のある余生を送ることができる。受給者が少ないので、国側も楽に年金を運用できた。しかし平均寿命が90歳に迫る現在では、年金不安の記事が出ない日はない。



しかしそもそも、「人生終盤は中盤までの蓄積に乗っかって生きるべし」と誰が決めたのか。野球でも6回までの得点だけで逃げ切ろうとすれば、終盤に苦しい展開を免れない。人生でも同じで、7回以降も得点できる(60歳以上になっても生活に必要なものを手に入れられる)設計をしておくべきではなかったのか。

退職後10年以内に亡くなるのが普通だった時代なら、「いい学校」を出て都会の「いい会社」に入り、できる限り高いポストにつけば、「人生の勝利者」になれただろう。だからこそ日本の教育カリキュラムは、都会の大学を目指すお受験中心のものになってしまった。しかしこの設計は、人生の9回裏を迎える人が増えつつある現代には、全くもってそぐわないものではないだろうか。

人生9回裏まで
楽しく生き抜く教育

子供のお受験に狂奔する親は、「田舎で一次産業に従事する人は、いい教育を受けられなかった負け組だ」とでも思っているようだ。だが実態は逆ではないのか。今の農山漁村に行けば、70歳や80歳になっても現役で、バリバリ現場で働いている人が大勢いる。もらっている年金は明らかに少ないはずだが、生きるのに必要な食料・水・燃料の一部を自給し、あるいは物々交換で手に入れている彼らに、金銭面での不安は少ない。実際問題、生活保護を受けている人の比率が東京23区では2.4%なのに対し(これは全国の都道府県に比べればトップクラスに高い)、過疎地の多くでは1%未満だ。この数字は、高齢者でも生業を得られる田舎と、生業を得る道の少ない都会の逆格差を示す。

問題は頭の中身が一向に変わらないことだ。農山漁村の住民自身も、現にじゅうぶんに食べているのに、死ぬまで役目のある充実した日々を送っているのに、「自分は『いい学校』を出て『いい会社』に入って偉くなれなかった負け組だ」と思い込んでいる。都会の母親は、子供をそのような存在にはさせまいと、「いい教育」を受けられる学校のお受験に必死になっている。だが、最大でも6回で効力を失ってしまう今の日本のお受験教育のどこが、「いい教育」なのだろうか。

農山漁村で自給しないまでも、仕事以外に夢中になれることを持っていれば、人生終盤を生き抜く力は強まる。釣りや登山、読書、手芸など、どのようなものでも構わない。好きなことを通じて仲間を得られれば、物々交換もでき、孤立することもない。

日本の学校教育、特に「エリートコース」の教育カリキュラムは、平均寿命が60代だったころのままの欠陥教育だ。人生9回裏まで楽しく生き抜く教育を子供に受けさせるには、親自身の見栄で目を曇らせることなく、勉強以外のことに時間を割かせるべきである。いやそれ以前に親自身が、自分が自分の9回裏までどう生きるかを、ビジョンを持って子供の目の前で見せて行くべきではないだろうか。

PROFILE

藻谷 浩介 MOTANI KOUSUKE

株式会社日本総合研究所主席研究員。地域エコノミストとして地域の特性を多面的に把握し、地域振興について全国で講演や面談を実施。自治体や企業にアドバイス、コンサルティングを行っている。主な著書に、『観光立国の正体』(新潮新書)、『日本の大問題』(中央公論社)『里山資本主義』(KADOKAWA)など著書多数。


FQ JAPAN VOL.48より転載

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