子供を運動好きにしたい! 子育てを科学的に考える

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視覚、聴覚、筋運動感覚などの感覚器官を通して、体を自分の思うように巧みにコントロールする力。それが幼児期に急激に発達する運動コントロール力だ。

錦織選手がテニス1本に
専念したのは、なんと12歳

「遊びは、“人間の発達”にとって欠くことのできない重要な営み」と話すのは、MKS幼児運動能力検査の中心的な役割を果たしてきた杉原隆教授。MKSとは、幼児期の子供を対象とした全国標準をもつ日本で唯一の運動能力検査。25m走や立ち幅跳び、ボール投げなど6種目を5段階で評価する。

ここで、下図の棒グラフをご覧いただきたい。運動指導をしていない園と、体操や水泳指導などをしている園を指導頻度が高い園と低い園に分け、3群の運動能力を比較したグラフだ。

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幼児の運動能力全国調査の分析結果が示しているのは、幼児期の発達にとっていかに遊びとしての運動経験が効果的であるかという客観的なデータ。最も運動能力が低かったのが、最も運動指導頻度の高い園という結果。体操が約6割、水泳、マットや跳び箱・鉄棒などの器械運動、縄跳びなどが5割弱、サッカーやマラソンなどが3割弱の園で指導されている。
 

「運動能力を高めようとして指導者が技術指導をしている園ほど、運動能力が低くなるという結果でした。何か1つの運動を指導するのは、幼児期の発達的特徴に合っていないという結論です」(杉原教授)。

では、幼児期、どのような運動がふさわしいのだろうか。

「子供の自己決定を尊重した遊びです。遊びの中で一生懸命取り組んだり、動きを工夫したり、自分でやりたい動きに挑戦したりする運動経験を通して、様々な運動能力が上達していくのが幼児期にふさわしい運動です」。

一流アスリートの多くは、幼児期・児童期には専門化されたスポーツとしてではなく、遊びとして多くの運動を経験していることが明らかになっている。

「テニスの錦織圭選手がラケットを握り始めたのはわずか3歳ですが、テニス以外にもサッカーや水泳、ピアノなど、様々な習い事をしていたことが知られています。本格的にテニスだけに専念するようになったのが12歳。それからでも遅くないのです」。

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基礎的運動を習得する幼児期・児童期、人間の持つすべての運動パターンが習得される。つまり、人間の生活に必要な運動のための幅広い土台を作る時期。専門化された運動の段階への移行が始まるのは早くても7歳以降。
 

体育科学センター体育カリキュラム作成小委員会の調査によると、2週間にわたって1日1時間の自由遊びの場面での幼児期の子供の動きを観察したところ、「走る」「掘る」「転がす」「引っ張る」「ぶらさがる」「くぐる」「こぐ」「投げる」など、じつに84ものパターンの動きが見られたという。これは大人が行う運動パターンのレパートリーをほぼ網羅する。つまり6、7歳頃までに大人と同レベルにまでに基礎的な運動能力が発達し、人間が生きる上で必要な運動の土台が築かれる。だから、早期から1つのスポーツに絞った習い事は、大きなリスクを伴うのだ。  

「スポーツを限定して、もしその子の特性に合っていないと悲惨です。幼児期は、好奇心や関心によってもたらされる内発的動機づけが強い時。森には、子供の好奇心と興味を刺激するものがいっぱいです。多彩な地形が多様な運動を引き出します」。

親としてできることは、遊ぶ時間と場所の確保。なるべく毎日1時間以上の外遊びが理想だという。さらに、杉原教授は言う。

「人間は生まれつき、自分の能力を向上させたいという根源的な欲求を持っています。それを追求している行動が“遊び”なのです」。

【PROFILE】
杉原 隆 教授
東京学芸大学名誉教授。一般財団法人田中教育研究所所長。
主著書『幼児期における運動発達と運動遊びの指導~遊びのなかで子どもは育つ』(ミネルヴァ書房)他多数。

Text » MIKAKO HIROSE

※FQ JAPAN VOL.39(2016年夏号)より転載
 

 

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