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インタビュー

「子育ては自分育て」本木雅弘の父親学

見せられる背中がないことが
父親としての悩みだった

本木さんの話からは子煩悩な印象を受けるが、意外にも、父親として子供に見せられる背中がないことを悩んできたという。

「『うちの親父めちゃくちゃでさ。でも、人生を満喫しているんだよね。そこが自分にも受け継がれているかも』なんて息子にいわれるような子育てに理想を重ねたりもしますが、現実には、母親みたいに細々と日々のことを手伝って、親の役目を果たしたように誤魔化している自分がいてですね(笑)。子供に何かを聞かれても、『それは、私にはわからないけれど、一般的にはこうだよね』などと、オリジナルなメッセージを発せずにやり過ごすなど、与えられる個性がないことに、ずいぶん悩んだりもしました」。

スクリーンの中の幸夫がそうであるように、自分のダメさや弱さを包み隠さずに見せることも子育ての正解のひとつ。そんなふうにいまは、思えるようになってきた。

「中学から外国に出し大学生になった長男を見ていると、親が与えられるものは、現実的にはあまりないのではないかと思います。学校や社会で覚えて背おうもののほうがずっと重く、そこで培うものこそが財産なんですよね。じゃあ、親は何をするのかといえば、普段がどんなにダメであったとしても、最終的な拠りどころであればそれでいい気がするんです。どんなときでも見守られているという安心感を与えてあげることが、親としての最低限の仕事なのかな、と思いますね」。

その気づきが、次男の子育てにも活かされている。

「上の2人の子供を育てて思ったのは、特に子供が小さいうちは、親は道化でいいということです。君の周りでいつもニコニコして見守っているよ。その姿勢が安心感につながるのかな、と。何ができないと気を揉むのではなく、いまできていることをしっかり見て、『すごいね!』、『こんな線が描けたんだ』、『よく見ていたね』と、
褒めるようにしています。でも、いま目の前で起きていることをキチンと見るって案外むずかしい」。

子供から教えたのは、
〝聞く〞と〝待つ〞こと

子育ては自分育て。かつて義母から聞いていた通り、本木さんには子供によって育てられたという自負がある。

「子供から教えられたのは、コミュニケーションでいちばん大切なのは、自分の気持ちを上手に伝えることよりも、〝聞く〞こと。好かれ、愛される人間は、聞くことができる人なんだ、ということです。それを子供との関係に置き換えた場合に大切なのは、〝待つ〞ということだと。子供とのやりとりは待ったなしの場合が多く、ついつい、封じ込めるか、引っ張りだすか、いずれかの選択をしがちだけれども、この慌ただしいシチュエーションのでも最大限に待てる数十秒というのがあるでしょう?これが、私が子供に対して心を砕いていることのひとつす」。

具体的な方法論としては、互いの沸き立つ感情を抑えるために、言葉のクッションをひとつ挟むことだという。

「子供の話を聞いていて、驚いたり、憤死しそうになったり、いかにも言い訳しそうな気配がムンムン漂っていたり(笑)。どれだけ『おまえ!』と怒鳴りたい局面であったとしても、できるだけ子供に話させるようにして、かつ、『あぁ、そうか。そうなんだ』とかなんとかいって、こちらも自分の感情を飲み込む時間を持つんです(笑)。待つことは、私はいつでも君の話を聞く用意がある。それを態度で示すことだと思います」。そしてもうひとつ、子供から教えられたことがある。

「人間は生涯を通じて、お互いに育み、育まれる関係を持つべきなんだ、ということですね。それは親子に限らず、夫婦、師弟関係、ペットや植物を愛でて長い期間保護していくことでもいい。自分を高めて成長させていくためには、やはり、自分ではないだれかとの関係が必要だと、この年になって改めて感じています」。■

【PROFILE】
本木雅弘 MASAHIRO MOTOKI
俳優。1965年、埼玉県生まれ。’82~’88年まで、シブがき隊のメンバーとして活躍。’92年『シコふんじゃった。』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞など多数受賞。2008年には、自身の発案により映画化した『おくりびと』が大ヒットし、日本映画史上初となるアカデミー賞外国語映画賞を受賞している。

 

映画『永い言い訳』10月14日(金) 全国ロードショー

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妻を亡くした男と、母を亡くした子供たち。
その不思議な出会いから、「あたらしい家族」の物語が動きはじめる。

人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(きぬがさ さちお)は、妻が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったと知らせを受ける。その時不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、妻の親友の遺族―トラック運転手の夫・陽一とその子供たちに出会った幸夫は、ふとした思いつきから幼い彼らの世話を買って出る。保育園に通う灯(あかり)と、妹の世話のため中学受験を諦めようとしていた兄の真平。子どもを持たない幸夫は、誰かのために生きる幸せを初めて知り、虚しかった毎日が輝き出すのだが・・・

出演:本木雅弘/竹原ピストル 藤田健心 白鳥玉季 堀内敬子/池松壮亮 黒木華 山田真歩/深津絵里
原作・脚本・監督:西川美和

製作:『永い言い訳』製作委員会(バンダイビジュアル株式会社、株式会社AOI Pro.、株式会社テレビ東京、アスミック・エース株式会社、株式会社文藝春秋、テレビ大阪株式会社)
原作:「永い言い訳」(文藝春秋刊)
制作プロダクション:株式会社AOI Pro.
配給:アスミック・エース
HP:映画『永い言い訳』公式サイト
©2016「永い言い訳」製作委員会 PG-12

Photo » NAOTO OHKAWA
Text » YUKI IMATOMI
Stylist » MIWAKO KOBAYASHI
Hair&Make » MUTSUKI SAKAI

ジャケット¥63,720(ティージャケット)、ニット¥32,380(ジョン スメドレー)、デニム¥29,160(アントレ アミ)/以上、ビームスF 新宿 03-5368-7305、シューズ(ジャランスリウァヤ)¥34,560/ビームス ライツ 渋谷 03-5464-3580
※金額はすべて税込価格

※FQ JAPAN DIGEST VOL.38(2016年秋号)より転載

 

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