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保育園クレーム問題Q&A(駒崎弘樹氏ブログより)

市川市で住民クレームで開園ができない事案が発生しました。基本的な前提が認識されていないことを感じたので、保育事業者として日々、地域住民の方からのクレームをいただく身としてお答えします。

市川市で住民クレームで開園ができない事案が発生しました。
ネット上でいろんな意見を見ていて、基本的な前提が認識されていないことを感じたので、保育事業者として日々、地域住民の方からのクレームをいただく身としてお答えします。
なお、クレームによって廃園した経験もありますし、パイプ椅子を持った地域の人が怒鳴り込んでくる事案も経験しています。

参考:私立保育園:「子供の声うるさい」開園断念 千葉・市川 – 毎日新聞

保育園騒音クレーム問題に関する
基本的Q&A

Q:クレームはどんなものなの?

A : 千差万別ですが、理に適った丁寧な御指摘から、パイプ椅子を持って大声を出して喚き散らす男性まで、様々です。

Q : 悪質なものは警察や役所に言えば?

A : 警察は「民事不介入」の原則があるので、相当悪質で怪我人が出たり、明確に出るおそれのあるものしか、対応しません。例えば、大声で怒鳴る人や、パイプ椅子を持ってくる人にも、話は聞いてくれますが、具体的な対応はしてくれませんでした。我々が保育所を運営している自治体の範囲内での話ですが、区役所は、基本的には「保育園事業者さんと住民さんで、民間同士でしっかり話し合いをしてください」という姿勢です。

Q : きちんと周辺住民に挨拶や説明会等を行うべきだ

A : 挨拶や説明会等を行うことで、周辺住民との信頼関係が構築され、クレームに繋がるような事案でも、予防できることがあることは、我々も肌感覚で知っており、実行もしています。
しかし、すべての近隣住民に挨拶したり、説明会等を行えるわけではなく、また行ったとしても、非常に理不尽な訴えをする方はいますし、メンタルや生活に課題を抱えていて、通常のコミュニケーションが取れないケースもあります。

Q : クレームなんて、コンビニとかでもよくある。そこまで困る?

A : 地域住民のクレームは、保育内容に直結します。例えば
・大声を出さないよう指導
・走らないように指導
・体を使ったり声を出したりするアクティビティの制限
・園庭での活動の制限

などなどです。これらによって、子ども達の健やかな育ちを支援するはずの保育が、
制限ずくめのものとなります。

心のOSがつくられることを支援する、就学前教育(保育)の質が下がると、その子どもの一生を左右するくらいのインパクトを与えます。

Q : そんな多少クレーム入れられたくらいで開園を諦めたり、閉園したりするのは行き過ぎ。毅然とした態度で対応すべき

A:保育園が預かっているのは、子どもの命です。クレームを放置し続けて、その人が逆上して保育園に乗り込んできたら、子どもの命に関わります。現に、大声で怒鳴り込んでくる人や、椅子を抱えてくる人など、地域には多様な方々がいらっしゃいます。愛する子ども達に危害が及ぶのは、保育に携わるものとしては最も避けたいのです。
また、理不尽なクレーマーと関わり続ける場合、ただでさえ忙しい保育士達の時間と気力を奪い、保育士達は疲弊し、燃え尽きていきます。保育士不足の中、そうした環境に保育士を置くことは園全体の損失であるため、それであれば開園を諦めたり、閉園した方が良い、という判断をすることになります。

Q:海外ではどうしているの?

A:ドイツでも同様の事案が発生し、ある幼稚園が閉園に追い込まれました。それに抗議した親達の活動が実を結び、まずはベルリンで条例化、そして全ドイツにおいて「子ども施設の騒音への特権付与法」が成立しました(http://bit.ly/1oVfVzG)。

これによって、子どもの声は騒音規定から除外されたのです。

Q:日本ではどうすれば良い?

A:日本においても、できることは以下のものが考えられます。

①全国実態調査
こうした保育園の騒音クレームについて、現在全くデータがありません。
全国の保育事業者にアンケート調査を行い、被害の実態をつかむことが重要です。

それによって、クレームのシチュエーション・クレーマーの年代・クレーム理由等が把握でき、対処方法が策定できます。

②防音整備や駐車場賃貸の補助
子どもの声や、保育園前に保護者が路駐してしまうことによる渋滞などは、窓の二重化や駐車場を増やすことによって、ある程度緩和できます。
ただ、それを園の持ち出しですることは、園の財政事情的になかなかできません。
よって、基礎自治体の審査を受け、該当園は補助を受けられるようにする、という仕組みをつくることは考えられます。

③仲裁機関の設置
現在、保育園側が負担に感じるのは、クレーマーとの直接のやりとりです。
これを、基礎自治体や都道府県に設置された仲裁機関を介する形にすれば、負担も軽減できますし、理不尽なクレーマーの過剰に攻撃的な姿勢も抑制できます。
仲裁機関は行政自らがやらずともよく、法律事務所等に委託する形で運営すれば、専門性も担保されます。

④子どもの声を騒音規定から外す
すでに東京都は条例によって子どもの声を騒音規定から外していますが、これをドイツのように法律をつくり、全国的に行っていくことが考えられます。

とりいそぎ、「保育園騒音クレーム問題に関する基本的Q&A」でした。
現場からは以上です!

ws_komazaki駒崎弘樹
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、NPO法人フローレンスを設立。日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを首都圏で開始し、共働きやひとり親の子育て家庭をサポートしている。1男1女の父であり、子供の誕生時にはそれぞれ2ヶ月の育児休暇を取得している。

※駒崎弘樹ブログ(http://www.komazaki.net)より転載

 

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